第19話 文化祭3 side.Kai

 「販売会はコッチのブースで行われています。あのおにいさんに着いて行ってくださいね」

 俺が指をさすと、モームはひらひらと手をふる。販売会目当ての一般客はすぐにモームの元へ行った。

 「ほんと大盛況だな」

 「カイ、コッチ手伝って!」

 途絶える気配のない客足に少しうんざりしながら呟く。すると、クロエが悲鳴を上げるように俺を呼んだ。

 慌てて駆け寄ると、そこには何故かひれ伏すように膝を折っている一般客と、困った様子のクロエが居た。

 「…クロエ、これは何がどうした」

 「…なんか、急にこの人達が”草の乙女!!!”って叫んでこうなった」

 ”草の乙女”って、確かリファさんが書いてた創作漫画のタイトルだったような。それとクロエに何の関係が、…っと待てよ。リファさん、もしかして。

 「あの〜、”草の乙女”ってリファさんの創作ですよね。もしかして、彼女とその”草の乙女”、ビジュ一緒だったりしますか」

 もしかして。もしかしてだが、リファさんがクロエをモデルに漫画を書いている可能性がある。一番クロエの容姿にがっついていた人なので、無いとは言えない。

 「「「……」」」

 すると、跪いていた人たちは顔を上げ、揃って頷いた。

 「…おう、まい、ごっと」

 思わず頭を抱える。クロエも察したようで、愕然とした表情を浮かべていた。

 「あの、とりあえず、立ってください。そんで、ちょっとこっちに寄ってくれませんか。他のお客さんの妨げになるので」

 おずおずとクロエが言い、彼らはすぐに動き出す。…なんか宗教じみてんなー。クロエ、そのうち宗教の御神体?みたいなもんに祭り上げられそう。親友の将来が心配だ。

 「…で、クロエ、この人達はどうする?通報もアリだけど」

 俺が提案すると、彼らはビクリ、と体を震わせた。俺の言葉について考えているクロエを縋るように見る。

 「うーん…。何にもしてないし、そのままでいいんじゃない?その様子だと、まだ販売会に行けてないですよね?だから、そのままで」

 クロエの言葉に、3人は救われたような顔をした。…うん、本当に教祖になりかけてる。

 「もう戻って大丈夫ですよ。他のお客さんの迷惑にならないようにしてくださいね」

 クロエの言葉で、その場は解散、俺とクロエは定位置に戻った。


 「カイ、クロエに何かあったのか?」

 俺たちが少しの間持ち場を離れたことに気付いたモームが真剣な顔をして尋ねてくる。…よくクロエのことだと気付いたな、だがまだ認めてないぞ。

 「クロエが崇め奉られてた。犯人はリファさんだから、後で副寮長と寮長に言いつける。モームも行くか?」

 「もちろん行く。面白そうだな」

 そして、再び一般客の整理に戻った。


 人が多い!!

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