第10話 テンプレ遭遇

 「…以上で、授業は終わりだ。しっかり復習をしておくように」

 クロエのクラス担任、ブランシェが授業の終わりを告げる。それと同時に、数人が教室を飛び出した。クロエもそれに習い、教室を飛び出す。向かう先は食堂だ。

 本日の時間割は通常と異なり、午前で終わる。よって、ブランシェが本日最後の授業の担当であり、終礼も兼ねて授業を行っていた。

 食堂につくと、もうすでに席は生徒で溢れかえっており、空いている席は見当たらない。クロエは若干うんざりしながら空いている席、もしくはシャドウラフ寮生を探した。

 シャドウラフは他寮と比べて寮生同士の仲が良いので、食堂にいる場合席を分けてくれるのだ。

 …そう、席を”分ける”。彼らは席を取る時、何故か一席多く取る。毎年新入生たちは疑問、もしくは不満に思うが、上級生になるにつれ”そういうものだ”と受け入れるようになっていく。そういうものなのだ。

 「…あっ、クロエ!こっちお座りなすって!」

 「お言葉に甘えてカイさん、お邪魔するね」

 クロエに声をかけたカイも例にもれず、席を一席多く取っていた。

 カイの隣にクロエは座り、食事を始める。魔法師団魔法師養成学園の食堂はどの学校も一流の料理人を雇っているので、メニューが豊富かつ絶品と生徒、教員ともに人気だ。

 「ねーカイ、今度の文化祭ってウチの寮何するんかな」

 「…ウチは毎年同人誌だったりレイヤー撮影会やったりしてるなー。去年は最高だった」

 その絶品メニューを食べながらクロエとカイは話を始める。内容は三週間後開催される文化祭についてだ。

 「ウチの寮、かなりオタク文化だもんね。でも陽キャも陰キャも共存してるし。…だからカイはシャドウラフを選んだんでしょ?」

 「まーな。前世から言ってたみたいに、陽キャすぎる陽キャは敵だし。だったら同士が多いシャドウラフが一番生きやすいだろ?」

 やっぱりね、とクロエは笑う。そして、最後のひとくちを口に含んだ。

 ひとくち、口に含んで。喉につまらせそうになる。

 「オイ、テメエ…。何勝手に座ってんだよッ!」

 「グフュッ!!??」

 クロエはいきなり胸ぐらを掴まれ、変な声が出る。おおよそ、その容姿から出るとは想像できない汚い声だった。

 カイはクロエを開放しようと立ち上がる。そして、クロエを掴んだ者の顔を見た。

 「今すぐその子を放してくれ。ていうか何で急に掴む!」

 「…あ"?…チッ、”影”の奴らかよ。とっとと消えろ、ここはオレが使う」

 そいつは”ウルフシン”の寮生だった。見るからに荒々しく、一歩間違えれば”ヤ”のつくおにいさんに見えるだろう。

 カイはまた口を開こうとして、あることに気づく。

 「…靄?あんた、魔法の影響受けてない?」

 そのおにいさんの背後に、灰色の靄が見える。若干の魔力も感じるので、魔法の影響を受けているとカイは考えた。

 「吐く吐く吐く」

 その間にもクロエの食道は圧迫され、先程食べたものが逆流しそうになる。

 「あ"ぁ?何言ってんだ、テメ、…!?ハ?」

 おにいさんは訝しんでいたが、その表情がみるみる変わる。同時に、カイに見えていた靄も晴れた。

 「ンだよ、コレ…!?」

 「自覚できたみたいだな。じゃあ、」

 カイは満足そうに笑い、そして

 「さっさとクロエを放せェ!」

 おにいさんに襲いかかる。襲いかかると言っても、クロエを掴んでいる腕をチョップではたき落としただけだ。なので、そこまで物騒なものではない。そもそも、そんな度胸はカイにはない。

 「ゲホッ、ゲホッ。…カイありがと。もう行こ」

 無事開放されたクロエはおにいさんを一瞥してから、食堂を出ていく。その場に残ったのは、呆気に取られているおにいさんだけだった。

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