第11話 襲撃許可 side.Kai

 「寮長、他寮に殴り込み入れても良いんですかー?」

 「いきなり物騒だね、カイ。どこにするんだい?」

 「”ウルフシン”でーす。今日の昼、クロエが不当な暴力を受けたんで、殴り込みしたいらしいっす」

 「…”ウルフシン”なら、良いよ。やりすぎないように気をつけてねってことだけ、クロエに言っておいてくれ」

 「はーい」


 「ってなわけで、許可は出たから良いよー」

 「ガバ判定すぎんか」

 クロエはその茶色の瞳を大きくして、驚いている。まあ、たしかにガバ判定ではあるな。でも寮長はそんなに気にしないもんなあ。

 「で、どうする?行く?」

 クロエに尋ねると、爛々と目を輝かせていった。

 「もちろん。流石に不平等なままじゃ、私が納得いかない」

 …やっぱり、クロエも”ウラ”に来て何年も立つから、性格が変わったなあ。俺も自覚できるぐらいには”海”と性格が違うし。今の”クロエ”は前の”黑縁”よりも好戦的だ。

 「じゃあ、俺も付き添いで行くよ。いざというときは殴り込みに参加するけど良い?」

 「良いよ。…でも、そこまで荒れる予定はないなー」

 あはは、とクロエは笑って立ち上がる。向かう先は、ウルフシン寮。


 「すいません、おたくの寮にめちゃくちゃ顔が怖い人いますか?何か”ヤ”のつく組織に所属してそうな顔をしている強面のおにいさんです」

 「…喧嘩売りに来てんのか?」

 ウルフシンの寮長がちょうどいたので、クロエはその人にさっきのおにいさんのことを訪ねていた。聞き方がアレなので、喧嘩を売っていると勘違いされてもしょうがない。

 クロエは笑顔で首肯した。

 「はい。だって、その人にいきなり胸倉掴まれたんですよ。コレはもう喧嘩の合図じゃないですか」

 思考が物騒。めっちゃ物騒。本当に変わったな。

 「…ハァ。そういうことか。お前らの探してる奴はエンギルって奴だ。そろそろ戻ってくるはずだから、好きなようにしろ。…うちの奴が悪かったな」

 「え、良いんだ」

 思わず口に出してしまった。いやだって軽くね?自分とこの寮生が喧嘩売られるにしては返事が軽いぞ。

 だがクロエは気にせず、笑顔で礼を言った。

 「ありがとうございます。じゃあ喧嘩しても文句は言わないですね!寮壊すこともあるかもしれないんで、気をつけてください!それじゃあ、失礼しまーす」

 「は、ちょ、おい待て!」

 ウルフシンの寮長は焦ったような声を出すが、クロエは”何も聞こえな〜い”というような軽やかな足取りでその場を後にした。


 「…あ」

 「テメエ…!!」


 決戦場は、ウルフシン寮前。

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