第8話 新入生歓迎パーティ二次会

 「あはははは」

 何がおかしいのか、クロエは軽やかに笑う。その頬は、やや朱に染まっていた。…ダルクの酒で、酔っ払っているのである。

 「クロエちゃんは笑ったほうが良いわよ〜」

 「あはははは」

 ダルクは酔っ払いながらもクロエに話かけるが、クロエは壊れたbotのように笑い続ける。現時点で、もうクロエがかなり酔っていることがわかった。

 「そうそうそんな風に〜。はい、にっこりー」

 だが酔っぱらいのダルクはそんなことには気づかない。

 「…そろそろ終わりにするか」

 イリヤはクロエの状況を見て、新入生歓迎パーティを終わらせることを決める。クロエが酔っ払ったことで勝手に撃沈していった寮生もいるので、丁度いい頃合いだった。

 「クロエ、自分の部屋に戻れるかい?さっき教えたところだよ」

 「あはははは」

 「…まじか」

 イリヤの声はクロエに届かず、クロエは笑い続けている。途方に暮れるイリヤに、一人の寮生が話しかけた。

 「寮長、俺で良ければこの子の部屋に運びましょうか。寮長はこの後のこともありますし、俺に任せてくださいよ」

 「そうしてくれると嬉しい。頼める?」

 うん、とその寮生はうなずき、クロエを背負う。シャドウラフ寮には女子を運べるほど力のある寮生はほとんどいない。なので、基本的にシャドウラフ寮生が人や物を運ぶときは、身体強化の魔法を使っている。この寮生も、例にもれず身体強化の魔法を使ってクロエを運んでいた。

 「あははははは。……あは?」

 「やっと正気に戻った?初めてのお酒はどうでしたか、おじょー様」

 クロエの部屋に運んでいる途中、酔いが冷めたのかクロエは不思議そうに周囲を眺める。そして、自分の置かれている状況に気づいて、目を見開いた。

 「…”海”?」

 恐る恐る、確かめるように運んでくれた寮生に尋ねる。寮生は、嬉しそうに微笑んだ。

 「ああ、久しぶり!」

 「え、ほんとに”海”だった!?いや待って、ちょっとまって!やっぱ”海”だったのは嬉しいけど、何この状況!?」

 寮生、前世の”海”は、クロエをおろしながら今までの説明をする。

 ダルクの酒を誤って飲んでしまったこと。

 酔っ払って、壊れたbotのようにひたすら笑っていたこと。

 流れ弾で、クロエの酔っ払った笑顔で何人かの寮生が撃沈したこと。

 流石に被害拡大は望めないので、イリヤの判断でパーティは終わったこと。

 クロエの意識があまりなかったので、満を持して、”海”がクロエを運んだこと。

 ”海”が全て話し終えると、頭を抱えたクロエが出来上がった。自分の謎行動に、恥ずかし反面、戸惑い反面。

 「…とりあえず、ありがと、”海”。…”ウラ”での名前は何?」

 恥ずかしさを隠すように、クロエは”海”に名前を聞く。”海”は再び、ニコッ、と笑った。


 「俺の名前は、カイ・ヴァリエント。今年で17になるから、一応年上だね」

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