第44話 夏季休暇8 side.Kai

 きめ細かなレースはひるがえり、煌めく宝石は人々を誘惑する。

 「カイ様、お時間です」

 「エスコート、よろしくおねがいしますね」

 ジルとニアは外面をかぶり、問答無用で俺をパーティー会場へと連れ出した。

 行ってらっしゃいませ、とニコニコ笑いながらジルは俺を見送り、ニアは俺の腕に自分の腕を絡ませた。

 「ホント外面すごいな、お前ら双子」 

 「何の事でしょうか?カイ様、今日は楽しいパーティーになりそうですね」

 ニアは真顔でそう嘯くと、更にはウフフ、と笑ってみせる。そういうとこだぞ、外面の凄さ。

 「言っとくけど、俺は今日は踊らないからな」

 これだけは言っておこう。パーティー案内が来たときからこれだけは決めておいた。今回は絶対に踊らない。というか、踊りたくない。大衆の面前で踊り散らかすなんぞ、拷問以外の何物でもない。

 「あら、残念です。わたし、カイ様と踊れると楽しみにしていましたのに」

 「嘘つけ、踊らないほうが護衛的にも楽だろうが」

 チッ、ばれてやがったか__。気のせいだろうか、ニアの笑顔の裏側で、そう言われた気がした。

 「…護衛なんかに気配りをするなんて、カイ様はオヤサシイですね」

 「心のこもっていないお世辞をどうも。…あ"〜順番だぁ〜」

 入場順番が近づいてくる。何なんだよ、何で入場ごときで名前呼ばれなきゃいけないんだよ。何処まで古風にすれば気が済むんだよ。時代遅れだっつってんだよ。

 「カイ・ヴァリエント様。並びに、ニア・キューブ様。ご入場です」

 典型的な禿チョビおじさんに名前を呼ばれる。俺たちは背筋を伸ばし、会場へと入っていった。


 数時間後。

 「…あ〜きっつ。外面きっつ」

 「カイ様、挨拶したい方が」

 パーティー会場に入ってから数時間、大勢の人から挨拶を受けることになっていた。昔から知っている家の人もいれば、全く知らない人まで。

 我が家ヴァリエント家に挨拶を入れなければならないみたいな謎の風習があるのか、ひっきりなしに人が俺を訪ねてきていた。

 「ニア、そろそろ切って」

 「かしこまりました」

 流石に何時間も人と喋るのはキツイ。同士との話ならいつまでも話せるが、相手は同士じゃないし、話の内容もどうでもいい世間話や情報の探り合いだ。中には婚約者候補を差し出そうとする人もいる。はっきり言ってつまらない。

 「…なあニア。俺たち、もう帰ってもいいよな?さっき主催者にも許可取ったもんな?帰ろう」

 「かしこまりました。ではカイ様、よろしくおねがいします」

 珍しくニアは文句を言わず、大人しく腕を取る。

 そのまま、あくまで穏やかに、優雅に、静かに俺たちは会場を去った。


 後日、ジルとニアより。

 パーティー中に、誘拐・毒殺・強姦・暗殺されそうになっていたと教えられ、二度とパーティーに出ないことを誓った。

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手違い死→好待遇で、異世界へ!(with親友) あしゃる @ashal6

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