第43話 夏季休暇7 side.Kai

 「ほら動くなって、崩れるから」

 「わたしに釣り合う格好しないと恥かくのカイだよ」

 「嫌だ…」

 パーティー当日。開始時間の8時間前から準備は始まっていた。詳しく言うと、ボディケアに始まってヘアセットに続いていく感じである。

 現在、ジルは俺のヘアセットに精を出しており、その隣でニアがきらびやかなドレスに身を包んで待機している。

 なんでパーティーに招待されるんだ我が家。行きたくない人はここにいるのに。


 ヴァリエント。

 ”ウラ”での、俺の家。

 自我が芽生えたときに気づいた。___”あれ?俺の家、何か貴族っぽい立ち位置に居るくね?何か金持ちくね?もしやコレ…ニート生活できるんじゃね?”と。

 後で父様母様に確認を取ったところ、たしかに我が家は権力を持っている家だった。政界、経済界ともに権力を持っている便利な家。最高。

 だが現実はそう甘くはなかった。

 ヴァリエント家の長男として産まれたため、他家との会合に出席しなければいけない。母様にそう言われて、唖然とした。

 「カイは、唯一の跡取りだから」

 少し申し訳無さそうに、母様が言ったのを覚えている。陽キャでも申し訳ないと思うときがあるんだな、と思った。

 ということで俺は幼い頃から様々な会合に出席、不本意ながらも他家との関係性、力関係、我が家の立ち位置に詳しくなってしまった。

 詳しくなんてなりたくたかったのに!どぉして皆、ゎたしのぢゃまをすりゅの…?

 それに、何度も嫌な目に会った。その最たる例が、誘拐。

 まじで初対面のおっさんやおばさん、その他諸々に何度も誘拐されて、襲われそうになった。もちろん、性的な意味で。

 まあその気持ちはわからんでもないからなぁ。だって俺、かなりイケメンだし。幼少期は超絶ショタだったし。

 最初は誘拐に慣れていなかったから怖かったが、段々と慣れていき対処法を身につけるまで成長した。その途中で魔法の扱いにも長けたので、まあいい経験として俺の中では完結している。


 「…よし、できた。カイ、行くぞ」

 やっとジルのヘアセットが終わり、全ての準備が終わる。ジルが手配してくれた車に乗り込み、パーティー会場へと向かった。

 「今回の護衛もわたしが務めるから、カイは絶対にわたしから離れるなよ。また誘拐されたらわたし達解雇されちゃうし」

 「ぼくは会場に入れないから外で待ってるけど、なんかあったら連絡ちょうだい」

 いつも会合のときに言われる、二人の言葉。久しぶりだなぁ、と思いつつ俺は前々から思ってることを言った。

 「ジルとニアの職業絶対逆だろ」

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