第6話 寮入り side.Kai

 「今年の後輩はあの子だけかー。ま、良い子入ったし良いや」

 「…カイさん?貴方どしたの?ずっとニマニマしやがって残念イケメンになっているわよ?」

 「”推し”に近しい存在が自分の寮に来るなら誰だってそうなるだろ。あと、モーム。手ぇ出したらシバくからな」

 「へーい善処善処ー。時と場合によっちゃ無理だけどなー」

 「うわ独占欲〜」

 クー、モームと共に、先程決まった後輩について話しながら自寮、”シャドウラフ”寮へ帰っていた。個人的には今すぐにでも会いたいが、相手の準備があるのと、寮長が”まだ来んな”という圧をかけていたので諦めて三人で帰っていた。

 「カイ、クー、モーム、三人帰還しましたー!」

 寮の玄関に到着し、声高々に宣言する。先輩たちは、ノリよく返事を返してくれた。

 「無事帰還できたこと、嬉しく思う」

 「新入隊員は確保できたか?」

 三人を代表して、俺が高らかに宣言する。

 「性別行方不明系美少女を確保しましたー!」

 一瞬の静寂。その後に、雄叫びが上がった。…ですよね、自分たちの寮に美少女が入ったら誰でも喜びますよ。俺だって嬉しい。

 「どんな見た目?色は?」

 先輩の一人からがっつくように聞かれる。精一杯色を思い出しながら答えた。

 「えーっと、確か髪色は枯れ草?色で、瞳は茶色…だったよな、クー?」

 うん、とクーも頷く。先輩は少しの間静かになり、急に顔を上げて言った。

 「え待って”草”じゃん。木属性の見た目じゃん」

 「ン"」

 いきなり言われたので、思わずツボに入ってしまった。爆笑とまでは行かないが、体をくの字に曲げ、笑ってしまう。…いやいきなり”草”は唐突すぎて草。


 寮のロビーで先輩、同期と新寮生、そして寮長を待っていると、寮長が戻ってきた。寮長は寮生を全員集め、あることを告げる。

 「…今年の新寮生は、一人だよ。ぜっったいに、逃がしちゃいけないからね。行動には、気をつけること」

 はーい、へーい、と寮生たちが返事をする。…一人って、めっちゃ少ないな。まーうちの寮、そこまで人気ないもんな。

 そして寮長は、後ろに向けて言った。

 「もう入って大丈夫だよ」

 「はーい」

 扉の向こうから、声が聞こえる。自分の心臓の音がうるさくなる。…ああ、やっとだ。やっと、やっと会える。

 「彼女が、ウチの新しい仲間だよ。…自己紹介、よろしく」

 「あ、はい。初めまして、6月で十六になります、」


 「クロエ・アシラルドでっす」


 久しぶり、”黑縁”。

 初めまして、”クロエ”。

 これからまた、一緒に馬鹿なことをしよう。阿呆なことを言い合おう。

 今世も、よろしく。

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