第17話 文化祭 side.Kai

 「〜やっと終わったァァァ!」

 「よっしゃァァァァ!」

 クロエと副寮長は同時に雄叫びを上げ、ばたっ、と倒れた。

 慌てて駆け寄ると二人は満ち足りた顔をしており、副寮長は倒れながらも小さな声で呟く。

 「あとは印刷だけ…!」

 お疲れさまです、とその場にいる誰もが心の中で言ったと思う。


 …というのが一週間前。

 「最終チェックまだー!?」

 「衣装ほつれてたら許さねえぞ!!」 

 「ねえ、おかしくない?」

 現在、シャドウラフ寮内はたくさんの声で溢れかえっている。

 「カイ、もう私達することないよね」

 機材の運搬の手伝いに行っていたクロエが戻り、尋ねてきた。俺はうなずき、持っていた”モニター”で確認する。

 「…うん、俺たちがすることはさっきのでなくなったな。もうやることはないと思うから、寮長のところに行こう」 

 おけ、とクロエは返事をし、寮長がいる玄関へ向かった。


 「イリヤさーん、なんかやることあります…ぅ?」

 クロエの語尾が消える。…それもそうだ。玄関にいたのは、中華服に身を包んだ妖艶なおにいさんだったから。

 「ゑ…?」

 俺も誰か分からず、変な声が出る。え、誰この人。

 「…?もしかして、二人共ボクって思ってない?ボクだよ、イリヤだ」

 「「イリヤ!!??」」

 嘘だろ、この人があの寮長!?こんな妖艶なおにいさんが!?あの、寮長!?

 「えぇ、おお、うん…。え、イリヤさん!?どしたんすか、その格好!?」

 「面白いぐらいに動揺してるね。この格好はジグにやってもらったんだ」

 ジグさんを見ると、やりきった、とでも言いたげな表情を浮かべて額の汗を拭っている。いやあなたは自分の準備してください。

 「ボクにできることをしたくてね。客引きに出ることにしたんだ」

 「寮長、それ絶対逆効果です。寮長が妖艶すぎて客引き以前に客が倒れます」

 寮長が客引きに出ると聞いて、必死に止める。絶対ウチから出したら駄目だ。これはもう歩くテロに値する。絶対加害者になる。

 必死に止めるが寮長は聞き入れてくれない。

 「カイ、大げさだよ。じゃあそろそろ始まるから、ボクは行ってくる」

 「え、あちょっ…!」

 そして、寮長は行ってしまった。…ああ、絶対被害者出るな。

 呆然としている俺達の上に、文化祭始まりのチャイムが鳴った。


 「…クロエ」

 「……」

 「クーロエ」

 「……ハァ。行っちゃった」

 「…そうだね。被害者が出ても、全部寮長のせいにしよう。俺たちは何も知らない」

 「うん。知らないったら知らない。じゃ、玄関開こうか」

 クロエと一緒に扉を開ける。そして、出来得る限りの笑顔を浮かべて言った。

 「「ようこそ、”シャドウラフ寮”へ!販売会、及び撮影会開始です!」」

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