第39話 夏季休暇3 side.Cloe

 「遠くくらく深き夜に微睡むモノよ、乙女おとめの囁きに応じその目を醒ませ。望むモノは此処に在る」

 今私の家を訪ねた人、もしくは庭を覗いた人は驚くだろう。というかヒくだろう。だって、うら若き少女(笑)が怪しげな魔法陣の上で怪しげな呪文を唱えているんだから。

 「さあ、覚醒めざめろ。近く耀あかく浅き朝に醒めるモノとなれ。渡しは此処に居る」

 最後の呪文を唱えると、黒い靄が一気に私を取り囲んだ。正確には、魔法陣から大量の黒い靄が現れている。

 「オラ、さっさと出てこいよ。テメエが私を所望したんだろうが」

 黒い靄に向かってそう言うと、実体を持ち始める。私の体に絡みつき、動きを封じようとしていた。”宝探し”の最後の時と同じ状態だ。

 「…いや痛い痛い痛い」

 なんか”宝探し”の時よりも拘束が強くなってるんですけど。関節技キメられそうになってるんですけど。普通に痛い。


 「__そうでしたね。ヒトは脆いものですから、チカラを入れれば壊れてしまう」

 とうとう靄は形を作り、人の形になった。靄が晴れ中から現れたのは、奇麗な顔をしたお兄さん。…最近イケメンと出会うことが多いな。

 「やっと逢うことができたのに、壊しては勿体無いですからね」

 口の端を耳まで上げ、お兄さんは嗤う。ギザギザの歯が剥き出しになり、鋭く光った。

 …まあ解ってましたよ、お兄さんが人間ではないってね。というか元が靄だから当たり前ですけどね。でも勿体無いんですよそれぐらいお兄さん美形なんです。イケメンなんです。クーが見たら新刊描くぐらいイケメンなんです。

 「初めまして、_ _ _ _ 。此方でのナマエはクロエ・アシラルドでしたか?良きナマエですね」

 あっ、犯罪者さんだ。私の前世の名前も知ってるとか、絶対前世から目をつけられてたでしょ。もしくは私のことを勝手に調べまくったでしょ。犯罪者さんだ。

 「それで、アナタの言う”望むモノ”とは?此方こちらを喚び出したのですから、それ相応のモノなのでしょう?」

 ほら、早く出しやがれ___。言外に、お兄さんは伝える。…やめてほしいな、そんな期待マックスハートでワクワクちゃんな態度見せられるの。ハードルが上がってしまう。

 お兄さんの態度に少しやりづらさを感じたが、私は諦めてお兄さんの”望むモノ”が何なのか言った。

 「…私の体の一部。できれば髪、もしくはどっちかの小指」

 それはつまり、私のこと。前世の私やカイが聞いたら”自意識過剰乙www”と思う所だが、現在いまの私は自分でも自身持って言えるぐらい美少女だ。人ならざるモノは美しいものを好むと昔から相場は決まっているし、それは”ウラ”でも適用される。現に、お兄さんは私の言葉を聞いて目を光らせた。

 「それは素晴らしい。では、髪をいただきましょう」

 乙女の髪には、魂が宿りますしね。お兄さんはそう呟くと、軽く指を振った。

 ばつん。

 「っ」

 頭が急に軽くなったのを感じる。恐る恐る髪を触ってみると、短くなっていた。大体10センチぐらい短くなっている。ちょうど髪を切りに行こうと思っていたので、美容室に行く手間が省けた。

 「やはり、良いモノですね。…クロエ・アシラルド。アナタの言葉に従い、アナタの望むまま働くと誓おう」

 お兄さんはうっそりと笑みを浮かべたあと、跪いてこう言った。

 「これから、アナタはワタクシの契約者と成ります。ずっと、心待ちにしておりました。これからよろしくお願いします、我が主マスター


 クロエ は 犯罪者のお兄さん を 仲間にした !

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る