第3章 寮対抗宝探し

第25話 テスト一幕

 文化祭も終わり、ノルン校はテスト期間に入っていた。

 ノルン校では三学期制、一学期ごとに一回のテストが行われ、実技・筆記のテストに分かれている。

 どちらのテストも赤点を取ると追試、さらに追試でも赤点を取ると留年のため、成績ギリギリの生徒は死ぬ気で勉強していた。

 また、毎度のことだがテスト期間になると暴れ出す生徒も現れる。

 「テストやだあああああ!!新刊やるううううう!!」

 シャドウラフ寮所属、クーもそのうちの一人だ。

 「クー、新刊は諦めてくれ頼む。じゃないと死ぬのはクーだぞ…!」

 「止めるなカイ!決めたんだよ、クロエを追い詰めたストーカーをぐちゃぐちゃにしてやるって!」

 それは見てみたい、とカイは思ったが口には出さず再びクーを説得する。

 「クー頼む、新刊書くのはテストが終わった後にしてくれ」

 「やだ」

 クーの目は完全に据わっており、その場しのぎの説得では決意が揺るがないことが分かる。カイは、覚悟を決めた。

 と、そこにクロエが現れる。

 「クロエ、君が止めても無駄だからね!新刊は、描き終わらせてもらう!」

 クーはそう宣言するが、クロエは何も言わない。

 「クロエ?」

 その時、カイだけがクロエの様子に気づいていた。クロエも、据わった目をしていることを。

 「さっきイリヤさんに許可もらってさぁ…。クー、ちょぉっと痛くするね」

 薄ら笑いを浮かべながら、彼女はそう言う。その姿は、さながらダークサイドに堕ちたヒロインのよう。

 あ、クー死んだ、とその場にいる誰もが思った。

 気付いていないのは、抵抗に必死なクーのみ。

 「__おらぁクーッ!!大人しくしやがれェッ」

 クロエはクーに近づくと、一気に飛びかかった。そのまま流れるような動きで、クーに絞め技をかける。

 「痛い痛い痛い痛いっ!ギブッ!ギブギブ!」

 クーは叫びながらなんとか逃げ出そうとするが、クロエがしっかり締めているので抜け出せない。その間にも、クロエはギリギリと締める力を強めていく。

 「クー、”やくそく”。私に絞め技を外してほしかったら、テスト期間中に新刊を描かないで。もし破ったら__ 」

 冷徹な表情で、クロエは淡々とクーに語りかける。周囲で見守っている寮生たちは、皆一様に

 (((抱いて)))

とクロエの雄みに触発され、恋する少女のように頬を染めていた。今、シャドウラフ寮ここにクロエのハーレム(ほぼ男)が完成する。

 彼女は周りの様子に気づかず、クーに向けて次の言葉を告げた。

 「__アンタをエロ同人のように触手でぐちゃぐちゃにするからな。覚悟しておけよ」

 「……ひゃいぃぃ」

 その言葉が嘘ではないと、クーは本能的に悟る。獣に追い詰められた兎のように、ブルブルと震えながら頷いた。

 クロエはそれを確認し、手を放す。先程の表情が嘘だったかのようにニッと笑い、側で赤面しているカイに向けて言った。

 「カイ、コレでもう大丈夫だよ。クーは新刊しないって”やくそく”したから、今からテスト勉強に集中する。カイも自分の勉強に集中できるよ〜」

 じゃあ、私はイリヤさんに報告してくから、とクロエはその場を後にした。

 そして、他の寮生たちが一気に騒ぎ出す。

 「ねえ何!?今のクロエ何!?」

 「やばいやばいテライケメンがまた降臨した!!」

 「どこの乙女ゲーだよ!何で女子が攻略対象なんだよ!?」

 「…クーが羨ましーなぁぁ!!」

 そんな中、クロエの雄みが直撃したカイとクーは、ほぼ同時に、小さく呟いた。

 「「どこの攻めさんですか…?」」

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