第24話 対抗戦

 「サンドラプリズン、対抗戦」が始まった。


 場所はサンドラ島の中央、円形のコロシアム。数百年前に闘技場として使っていた施設である。政府が関わっているので生徒や関係者以外にもかなり多くの観戦者が押し寄せてきた。


「すごい人ですね……イブ様、去年はこの半分もいませんでし」


「なんか見世物みたいで気が引けるよ」


 観客の様子をシルビアと物陰でみていた。今日は1日がかりである。午前の部では……クイズが始まる。そして五種競技の3種目も午前中に行われ、クイズは午前中に結果が出て、その他の競技は午後になる。



 シルビアと女子選手控え室に戻る。みんな緊張しているようだ。選手は応援に行けない。ここで待つのみでる。


「じゃあ行ってくるね!」


「ミコト、ふぁいと! シルビアも負けるなよ!」



 対抗戦が始まったようだ。会場がどよめいている。今は望み薄のミコトがクイズを戦っている。


「なんかすごい盛り上がってるね」


「去年とは全く違うわ……なんか負けられないって思ってきたよ」


 またどよめいた。恐らくクイズの前半が終わり、五種競技がスタートしたのだろう。設問数が限られているクイズはコールドがあるがミコトは戻ってこない……それなりに頑張っているようだ。



 控え室ではイブ以外の代表が出番に向けてアップを開始している。クマコは呪文を繰り返し、リッカは柔軟体操、イブはぼーっとしている。


 そして今までにない歓声が……


「クイズ終わったのかな……」


 少しするとミコトが戻ってきた。


「みんな〜! 勝てなかったけど……引き分けだった」


 べそをかいているミコトを余所に控え室のメンバーは凍りついた……引き分けって、奇跡じゃん…………これは朗報! 全員でミコトを讃えていた。


 興奮冷めやらぬ中、シルビアの五種競技の2種目が終わったようだ。少しするとシルビアが引き上げてくる。


「どうだったシルビア」


「もちろん! V」


 2種目は完勝だったようだ。午前中は遠投と力比べ、女子にはハンデがつけられるが、それを差し引いても完勝である。午後は五種競技、高跳びと持久走、最後は短距離走である。



△△△△△△△△△△△△△△



「プラック様、あのシルビアって魔族、素晴らしいポテンシャルです」


「あぁ、カイル様が後継者を見つけたと言っていたが、あの子の事だろう。魔王の血を引いている、という事は勇者の後継者になれると言うことだしな」


 プラックは対抗戦を楽しんでいた。そしてこれから午後の部が始まる。シルビアの五種競技後半戦からだ。



 やはりシルビアは圧倒的であった。シルビアはハンデなしで各種目を圧倒した。勇者候補であるから当然だが……そして次は魔法での対決。


「魔法対決かぁ、ダイン対クマコ? どちらも冴えない名前だな」 


 障害物が用意されて対戦がスタート、ダインは体力強化を使って接近戦を挑む。クマコはスピードで対抗している。何故か逃げ惑っているクマコに大声援が送られる。


「おいリヨン、何故観衆はクマコを応援してるのだ?」


「プラック様、恐らく……」


 リヨンは胸の膨らみを手で形どっている……そういう事か、愚かな観衆の考えそうな事だ。しかしよく見ると、胸の揺れ方がハンパない。プラックも必然的にクマコを応援していた。



 勝負は一瞬だった…………ダインの一撃、そしてクマコの電撃魔法、同時にヒットした。どちらも戦闘不能になりドローという結果に。


「リヨン、あの2人に回復魔法をかけてやってくれ」


「分かりました」


 正々堂々とした真剣勝負、会場は大きな拍手に包まれた。


 次は総合格闘、フィル対リッカ。プラックはフィルを知っている。地下格闘場の怪物と言われていて、10人を超える死者を出している〜研究素材を提供してくれたが、その殆どが不正な薬物によるものと分かりプリズン行きとなった。リッカも聞いたことがある、王都に蔓延るギャングの若きリーダー、内部抗争からか半殺しにされ騎士団に自首してきた。


「プラック様、ただいま戻りました」


「リヨンよ申し訳けないが闘技場の出入口で待機していてくれんか。この試合、危険を感じる」


 それはプラックの直感であった。フィルは何かをやる。カイル様の大切な御学友を死なせるわけにはいかない。


 試合が始まる。2人はまず握手をする…………あ、それだ!フィルの手のひらが一瞬光った、小さな針であろう。そのまま試合が始まる…………明らかにリッカの動きが悪い、防戦一方、スカートが裂け太ももが露わに。息も荒い。


 フィルは構わず拳を打ち込む……とうとうリッカは倒れた。その後も執拗に……動かないリッカを滅多打ちにする。審判が止めた時にはもうリッカは動かなくなっていた。フィルが勝利の雄叫びを揚げた。何も知らない群衆はそれに応える。ぐったりとしたリッカにリヨンが駆け寄った…………


(リヨンを待機させておいてよかった……)


 蘇生は息のあるうちであればリヨンでも完璧にこなせる。これが少しでも遅ければ蘇生は不可能になる。プラックはふと胸を撫で下ろす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る