第30話 進路選択
「ではアルカ、一人ずつ話を聞いていこうか」
「そうですね。カナタから呼びますね」
旅への出発前日、スラム出身の3人の進路を決定すべく面談することになった。まずはカナタ、予想としては共に付いてきそうだ。
「カナタ 入って」
「カナタはどうするの? 何か希望はある?」
イブの問いかけに真っ直ぐな目で答える。
「私はイブと一緒に行きたいです。イブと会えなかったらスラムでロクでもない人生送るところだったから。仮に命を落としても後悔ありません!」
カナタらしい。この分だと全員行きたいと言うかも知れない〜戦闘出来ないメンバーが3人くらい居てもイブにとっては負担にはならないから人数は多いに越したことはない。
「分かった。では誓いをしましょう」
イブはカナタと仲間の誓いをした。臣下の礼とは違った略式のものである。手を合わせ次に握り合う簡単な儀式。
「よろしくね! カナタ!」
「次! マルン、入ってー」
「マルン、あなたはどうする? カナタは一緒に行くって話だけど……」
「はい、知ってます。私は…………イブ様にお願いがあります。私、勉強したいんです! だから、サンドラの女子校に行きたいです」
予想外の言葉ではあった。だが、その提案は素晴らしい。マルンは3人の中で1番賢かったは事実である。
「素晴らしい! それ私に任せなさい!」
マルンは花が咲いたような笑顔をした。
「ありがとうございます」
「では次、ミル!」
「ミルはどうするの?」
「私は……ここに残りたい。みんな旅立ってしまったら、みんなの帰る場所なくなっちゃうじゃないですか、だから私はここでみんなが帰れる家を守っていきたいです」
これまた意外な選択。三者三様の希望が出てくるとはイブも思わなかった。
「わかった。その話、ちょっと待ってくれない?」
ミル1人をこのアジトに残す訳にはいかない。護衛を雇えばいいが、護衛を頼めるような人物〜出来れば男〜をイブは知らない。
「…………ダメって、事ですか…………」
「ううん、どうすればミルの願いが叶うか、少し考えたいの、心配しないで!」
イブは全員を呼んだ。そして、1つの宣言をした。
「みなさん、出発を2週間伸ばします。今回3人の話を聞いて思いついた事があります。少しだけ私に時間をください、きっとみんなの要望が叶う提案ができます!」
△△△△△△△△△△△△△△△
いきなりイブ様から連絡が来た。ダフネに何かお願いがあるそうで、早速夕方に来るという。転移陣というのは便利である、遠いノールダムから瞬時に移動できる、正に大魔法である。
ダフネはイブの伝言の通りにマーリとリッカを校長室に呼んだ。ちなみに伝言は伝書カラス、簡単な魔法ではあるが航続距離が長い分、大魔法使いでないと使えない。何もかも規格外である。
「ダフネ様、お呼びでしょうか。リッカも連れてきております」
「マーリ、すまんな。これからイブ様が来られる。相談したいことがあるそうだ」
「イブ……様が? 厄介な事になりそうですね(笑)」
マーリの言う通り。考えられるのは生徒の引き渡し、そもそもお偉方の考えることはロクなことがない。ダフネは無理難題を押し付けられたら断る、という決意をしていた。
特に話すこともなく、ダフネはイブ様を待った。時間は過ぎていく……。
「どうも〜 みなさん、ごめんなさい。お待たせしちゃいましたか?」
「イブ様、お待ちしておりました。再度お越し頂き光栄の極みにございます」
「あー、そんな礼はいいですよ。いつもと同じにしましょう。リッカ、久しぶり! 元気だった?」
「イブ……」
リッカはイブに抱きついた。いつもと同じ……こんな事が許されたと言うことか……。
「という訳で……色々協力してほしいのですけど。悪い話ではないでしょ?」
「それはもちろんです!」
イブ様の提案はとても素晴らしいものであった。ノールダムに学校を作る、その手助けをして欲しいとの提案、断る理由がない。イブ様は犯罪者の多くが無知によって事件を引き起こしていることを、ここサンドラで知ったそうだ。特に女子はその傾向が強い、この王国には女子専門の学校というものがない。
「学校開校の許可はこれからミトルのところに行って取ってきます。校舎の建築などはここの男子校の模範生にも手伝ってもらおうかと」
「そうですね。全面的に協力します。気長なプロジェクトにはなりますがきっと良い学校を作れるでしょう」
学校の本格稼働は数十年後、まずは孤児院を敷地内に開設。犯罪者ではない者を受け入れて土台を作る。まずはその孤児院スタッフをここの卒業生を手伝って貰いたいという。学校運営のノウハウを少しずつ吸収し、孤児院の次は初等科、そして中等科と開校していく。無理のない方法である。
「あと1つ、お願いあるんたけど……私の仲間を1人ここで勉強させてほしいんだ……将来のスタッフ候補として。そして孤児院の管理者候補も私の仲間が中心になるようにして欲しい」
無理難題ではない。孤児院の常駐者は必要〜その人の能力や適正問題はあるが、ダフネが支援すればどうにでもなる。
「分かりました。学びたいという編入者は……リッカが世話をするってことてすか?」
「さすが! なのでリッカを呼びました。同じサンドの住人ですし」
「お任せくださいっ!」
学校設立にむけてイブ様は忙しそうである。用件を済ませるとすぐに転移してしまった。今度は王城に行くそうだ。さすがは勇者様……である。
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