第31話 仕返し

「ハンス様、さすがに緊張しますね」


「だな、王城なんて入ったの初めてだもんな」


 ニールは王城に呼び出されていた。新たな特命任務が与えられるらしい。だが、ニールは嫌な予感もしていた。ハンス様には話さなかったが……以前逮捕しプリズン送りにした少女が勇者の末裔だったという、突拍子もない噂を耳にしている。これは本当ならその場で処刑も考えられる、だが、ハンス様にそれを伝えることは出来なかった。


「やはり私の長年の功績が認められたのかなぁ!」


「そうですね……」


 ハンスは見た目、人族であるがエルフ属との混血らしい。見た目は50歳くらいだが年齢不詳、魔王討伐に参加したという事が本当なら80歳は超えているはず。強さを考えると……それも頷ける。


 王城は豪華絢爛、謁見の間までは赤い絨毯が敷いてあり歴代の王の肖像画や風景画がかかっている。ハンスが敬愛する勇者カイル様の肖像画もある。


 ニールは謁見の間に入った。遠くに玉座がある。玉座の右側の席に人が座っている。王が殆ど姿を見せない事は知っていた、恐らく席に座っているのはミトル大公であろう。


「只今、勅命によりハンス、ニール以上2名ここに参上致しました」


「うむ、ご苦労。私はミトルだ。勅命は私が王に代わって出したもの。ハンス、ニールよ両名に任務を与えたい」


「喜んで、拝命いたします」


「その前に……おい、カイル様はまだか?」


「そろそろかと……」


 ミトル大公と白衣の男性が話している。白衣には子爵の章が刺繍されている。恐らく博士と呼ばれる称号のある大臣であろう。その時てあった……ちょうどニールの右前方に輝き、人が現れた。初めて目の当たりにしたがあれが転移魔法と言うやつだろう。カイル様がいらっしゃる……ニールは頭を垂れた。


「ごめ~ん、ミトル。ちょっと遅刻だよね(笑)」


「お久しぶりです、大公。ダフネ、参上致しました」


「カイル様、ちょうど呼び出したところです」


 ニールは下を向いたまま、話を聞いている。ダフネも来ているのか……やはりプリズン関連のこと……。


「ハンス、ニールを面を上げなさい」


 ニールは顔を上げて……仰天した。そこには、見覚えのある少女、うろ覚えだが恐らくイブ……である。隣のハンスは青ざめている。これは……よくて死罪である。



△△△△△△△△△△△△△△△



 イブはダフネを伴って謁見の間に降り立った。そこには嫌な気分が蘇る顔があった。そして、イブはミトルに促され王座に座る〜勇者カイルは王を超える絶対的権力なのだ。


「久しぶりね、オマワリさんと衛兵さん、元気った?」


 ハンスは声が出ない。だが、ハンスはおもむろに立ち上がる、そして帯剣していた自慢の剣を外し両手で王座に座る少女に差し出した。


「ハンスと申します。勇者様、私の犯したことは万死に値します。どうかこの場で自刎するお情けを……」


「ん、キサマはそんな事で許されると思っておるのか! 私はハンス、お前を許さない。だから死ぬまで私に忠義を尽くせ」 


 ハンスの決死の覚悟、やはり見込み通り。そしてニール、学校の警備を任せるには良い選択である。


「何なりと……」


「ではハンスよ、お前はこれからノールダムに設立予定の学校の周辺警備の責任者として生涯を捧げよ。そしてニール、お前は学校内警備を申し付ける」


「はっ。勇者様、光栄に存じます」


「お前たちに1つだけ制約を設ける。お前たちの警備対象は女子が学ぶ学校である。どんな事があっても殺人だけはいかん、よいな」


「その命、しかと承りました」


「よし、では場所を移すとしよう。ニール、その節はありがとうな。そしてハンス、初めて会ったときは世話になった。その後の行為も治安維持のため、これ以上恨み事を言うつもりはない。これからの関係が大切なのでささやかな宴を用意した」


「ありがたき幸せ」


「ミトルよ、その他の人選などは任せる。孤児院から学校建設までも指示通りに動いてくれ。私はこの者達を饗したあと、直ぐにノールダムに戻らないとならん」


「分かりました。カイル様」




「へー、ハンスはハーフエルフなのか……見えないな(笑)。普通なんだ、耳が尖ってたり、スラッとした体型だったりするじゃないか」


「イブ様、それは差別です。私もこの容姿に生まれたかった訳ではありません」


「まだまだ長生きってことか。警備の方は頼むな。学校の安全はハンスかかってるからな」


「分かりました。ここに控えるニールと力を合わせて生徒達の安全を確保します」


 謁見の間から場所を移して勇者専用の応接間に来ている。そこでハンズとニールを饗している。テーブルにはお洒落なツマミがある。そして極上の酒……。


「あ、そうだ。2人とも、今後は私のことをイブと呼ぶように。いいかな? もう元のカイルの容姿には戻れんからな……残りの余生はイブとして過ごす予定だから」


「わかりました」


 これで警備の問題は解決しそうだ。

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