第33話 勇者の勇者

 あっという間に2週間が過ぎた。イブは本日、ここノールダムのアジトに学校設立に関連する人物を呼んだ。ミトルを筆頭にダフネ、ハンス、ニール、それとマルンの学校編入のためリッカも呼んでいる。


「ではみなさん、揃いましたね。ではこれから大発表をします!」


 アルカを含め詳細は伝えていない。壮大過ぎて理解が出来ない可能性もあったので、ミトルまで呼び付けた。アジトの住人達は、アルカを含めてかなり緊張をしている。


「えーこの度、このノールダムをアジトに女子専用の学校を建設することにしました! まずは孤児院を設立して施設としての基本的運営ノウハウを学びます。そうですね、5年後には学校にしたいですね」


 アジトの住人は固まっている。それはそうだろう、理解が出来る筈がない。ミトルはしきりに頷いていて、ハンスとニールは頭を垂れたままだ。


「マルンは望み通りサンドラで勉学に励んでもらう。もし良かったら、将来はここノールダムで教師になって貰いたい。今日はサンドラの生徒で私の友人のリッカが来ている。マルンが明日から予定通りサンドラに行けるように用意をして欲しい」


 少しずつ反応が出てきた。マルンの顔が笑顔に変わった。たがメルは不安そうだ。イブは話を続ける。


「イブはここに建設される孤児院を任せる。な〜に簡単なことだ、ここにやって来る子供達と仲良く生活すればいいだけだし」


「あのー、そんな宜しいのでしょうか……偶然にイブ様に出逢えただけなのに。そこまで良くして貰って……」


「この世に偶然など存在しない。偶然に見える必然がこの世の根幹になっている、だからメル、気にする必要はない、失敗してもいい、思い切り励め!」


「………はい」


 メルもやっと笑顔になった。ミトルは……感動している。そんな中でイブはランスとニールを紹介した。学校施設の安全を担う警備責任者〜イブには適当な知り合いが2人しか居なかった柄から任せたが、これも必然であろう。


「以上が概要だが、質問なければ解散にする。最後にミトルよ、このプロジェクトよろしく頼む!」


「身命を賭して励みまする」


 これで旅立ちの準備は完了した。



△△△△△△△△△△△△△△△△



「あー、惜しい……」


「シルビア、これで私の4勝1敗だね(笑)」


 アルカはシルビアといつもの野原で模擬戦をしている。あれから時間を見つけては稽古と称して行っているのだ。勝敗はアルカが優勢だが、どの戦いも紙一重で勝負が決まっていた。


「いい戦いじゃない?」


「見ていたんですか? イブ(笑)」


「うん、やっと時間も空いたしね。模擬戦のことはカナタから聞いてたし」


 イブはご機嫌である。アルカがシルビアとコミュニケーションを取っているのが嬉しいのだろう。実際に模擬戦は貴重な修業になっていると感じる、それはシルビアも同じだろう。


「イブ様。1つだけお聞きしていいでしょうか?」


「シルビア、なに?」


「勇者はアルカではダメなのでしょうか? 私……アルカが勇者になるならその剣となります」


「そうか……」


 アルカは焦った。シルビアにはバレていたのだ……自身が目指していた目標〜そう、アルカは勇者になりたかった。だから勇者の侍女になる道を選んだのだ。そして、いつか勇者になろうと……少なくとも勇者に近づこうと。


「イブ……私……」


「分かった。いい機会だ、シルビアがなぜ勇者候補なのか説明をしよう。アルカ……あなたは私のような勇者にはなれない……」


 その言葉は胸に刺さった。分かっていたが受け止められない。初めてイブから放たれた非情の言葉……。自分の夢が潰えた瞬間。


「何故ですか? 何故私なのですか?」


「この世界を創造したヤマト神を知ってるだろ? ヤマト神、いやヤマトは存在していた。違った世界の住人と言えばいいかな。勇者になるには……その違った世界の血脈でないとなれない」


「勇者は努力とかでなれるものではないのですか?」


「それがヤマトが作ったルールだから。そして……シルビアの父、ハデスは異世界の住人だ、私と同じ……」


 アルカは……心の中で納得しようとしたが、やはり受け入れることが出来ない……自然に涙が出てきた。


「アルカ……よく聞いてくれ。あなたの祖父、セフィロスはこの世界の勇者ではなかった、けど、私にとっては勇者だった。私が敬愛し尊敬する存在……そうだね、勇者の勇者だったんだ。だからアルカも……勇者になれなくても、勇者の勇者にはなれる」


 いきなりシルビアに抱きしめられた。


「これからよろしくお願いします、私の勇者様」



△△△△△△△△△△△△△△



「ではマルン、メル行ってくるね!」


「はい、アルカ、お気をつけて……」


 イブはシルビアとアルカの顔を見る、とても清々しい顔をしている〜昨日の出来事で絆のようなものが芽生えたのだろう。これからシルビアの鍛錬と勇者パーティの仲間探しが始まる。勇者パーティは全員同性にしないとならない、それもヤマトが作ったルールだ。


「イブ様、たまにはサンドラにもお越しくださいね」


「おー、マルンの事も頼んだよ」


「はい」


「では、明日に向かって出発!」


 イブはシルビア、アルカ、カナタと共に旅立った。

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