第32話 カナタの目的

「イブ、本当に徒歩で行くのですか? 共和国までかなりの距離ですよ?」


「カルナ共和国の首都ミスルまでは徒歩だと何日かかるか想像もつかないな。どこかで乗り物調達するけど……ここにはいないから(笑)」


 またイブは変なことを思いついているようだ。目的地に転移陣がないので転移魔法は使えない、なので物理的に移動しないとならない。




 丸一日歩いて日が落ちた、そろそろ野営の準備である。少女4人での旅、まだ日が浅くお互いに遠慮しがちな旅になっているのでアルカは考えた……


「イブ、就寝用のテントは2人用を2つ使います。せっかくですから毎晩違う人と語り明かすというのはどうてすか?」


「それ、いいね。確かにカナタとは私も話したこと少ないし(笑) シルビアとカナタはどう思う?」


「良いのでは…………」


 アルカの提案が通った。イブはカナタのことを全く知らない、これはいい機会ある。恐らくカナタが付いてきた真意も知らないであろう。


「では私とイブでテント設営、シルビアとカナタは食事の用意、完全に日が落ちると真っ暗だから早めにやりましょう」


「おー!」


 相変わらずイフだけは能天気な反応をしている。



△△△△△△△△△△△△△△△



「おー、これも美味しいじゃないか! カナタはアレンジの天才だな」


「ど〜も(笑)」


 イブは感心している。この世界の携帯食は基本的に手のひらサイズで棒状になっている。味は2種類、甘いか甘くないか。だが、目の前にあるのは様々な形の携帯食、カナタが砕いて調味料や甘味料で味付けをしたようだ。


「初めて食べるね」


「スラムにいた時よく携帯食をアレンジしていたんです、私が作ったこの秘伝の調味料で!」


 絶えず戦争があったからか、王国の食文化は乏しく貧弱である。医学の進歩の関係で医学からくる健康食品はここ40年で発展してきた、この携帯食は旅で必要な栄養分を全て補っている。その分味はないに等しい。


「では今後カナタは料理番ね。これなら普通に料理作っても美味しく出来るもんね(笑)」


「イブ様がそう言うなら……」


「ダメダメ、カナタもイブって呼んで! シルビアにもそう呼んで欲しいけど、シルビアにとっては一応師匠だから……仕方なく様って付けるの許してる」


「わかりました。イブ(笑)」


 イブには同等の仲間が居たことがない。勇者パーティのメンバーは敬愛すべき偉人ばかりだったし、王国においては王と同等の地位で全ての人が目下。プリズンで味わった仲間感が忘れられない。


「よし、明日は夜明けから歩いて、とりあえずこの森を抜けよう!」


 食事もソコソコにイブはカナタと就寝用テントに向かった。




「なんか眠れないね(笑)」


「うん……少しだけ寒い」


 イブは眠れない。別にカナタと2人きりでドキドキするなんてことではない……今は身体は少女で心は老人なのだから。カナタが緊張している、その空気を感じるとどうしても寝付けない。


「カナタはさぁ、どうしてついてきたの? あのまま残った方が楽だったと思うけど」


「イブには言ってなかったけど、私のパパがカルナ出身なの。色々あって……スラムに流れ着いたんだけど」


「そうなのね……」


「イブお願いっ! 私のパパを殺してママをさらった共和国の議員マッカを殺して欲しいっ。私はその為だけに生きてきたの……沢山の屈辱にも耐えて……」


 初めて見たカナタの表情にイブは覚悟を見た。イブは……慎重に言葉を選んだ。


「カナタごめん、それは……出来ない。私的な恨みを晴らすために勇者は動かないんだ。恨みは恨みを呼ぶ、連鎖の手助けは出来ないの」


「そんなぁ……」


「でも私がカナタにしてあげられることはある。カルナには決闘の法律があったよね、カナタが決闘で倒す、それしかない。その為に私はカナタを強くする手助けはできる」


「でも……相手は、騎士だし……」


「上級の騎士くらいならどうにかなるよ(笑)。私を誰だと思ってるの! 老いぼれだけど勇者よ! 所謂勇者パーティなんだから、その気さえあれば強くなれる!(笑)」


 カナタを強くする事は可能である。時間もさほどかからないが、その間に復讐という行為が如何に愚かであるか、を教えていくしかない。それに勇者のパーティとして強さを身につける事で気づく事も多いであろう。


「本当……ですか? 私なんかが……」


「当たり前よ! 勇者の心の少女と大魔法使いセフィロスの孫のアルカ、次期勇者のシルビアが居るんだよ? 本気で取り組んで強くならない訳ないよ(笑) その代わり1つだけ約束〜私が許すまで決闘はしないこと」


「分かりました。約束します。えーと、では今日から皆さん3人は私の師匠ですね! イブ様(笑)」


 カナタはイブの両手をギュッと握ってきた。安心したのか、告白に疲れたのか、カナタは直ぐに眠ってしまった。


(今はこれでいいか……)


 イブもそろそろ眠くなってきた。

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