第29話 アルカの気持ち

 イブはここに1週間滞在することにした。その間にマルカ、カナタ、メルに今後どうするかを決めてもらうことにした。大金を持ってスラムに戻る、ここで暮らす、共に共和国に行く、ざっと3択である。とにかく彼女たちの意志を尊重したい。


「イブ、ミトル様は大丈夫だったの? 絶対に連れ戻されると思ったよ」


「うん、勇者の後継者の話をしたら納得してくれたよ。ミトルは王国も大切に思ってるからね。それに、不自由がないようにって高額も引き出せる魔法手形ももらった、だからお金は必要なくなったから」


「イブのやりたいこと、1つは働いて生活する、だったでしょ? それは諦めていいの? それに……勇者の後継者育成って、イブのやりたいことに入ってることなの?」


「働いて生活するのはもういいかな(笑) 正直、勇者育成はやりたいことでは……ない、断じてない。それでもこの世界の事を考えればさ、トライする価値はあると思う」


 アルカは勇者育成が反対なのだろう。イブの望みを叶える事を優先的に考えてくれている、有り難いことだ。


「イブがそう言うなら……」


「ね、アルカは自分の望みないの?」


「私、エルフだし、まだ長く生きるから。強いて言えば……達成すべき目標を持つことが望みかな」


 アルカは侍女という立場もあり付き従っているが、自身の意志で侍女を辞める選択もできる。そうしない事をイブは以前から不思議に思っていた。


「わかった。じゃあ目標出来るまでは一緒ね♡」


「キモ……くはなくなったね。自然な感じよ♡」


 離れた事でアルカと新たな絆が生まれたようだった。



△△△△△△△△△△△△△△



 アルカはアジトの近くの高台で遠くの山々を観ながら一人になりたいことがある。ここはいい、アルカが大好きな風の音が聞こえる。イブが戻ってきて5日が経過し、旅の支度も粗方終わっていてあとは出発の日を待つばかり。


(私のやりたいことか…………)


 アルカは明確に持っている自身の目標〜夢〜を想い、ため息をつく。後ろから声がかかる。


「アルカ様……」


「シルビア。どうしたの? なにか問題でも?」


「いえ……。ここ眺めがいいですね。風も心地良い(笑)」


 そう言ってシルビアはアルカの隣に座った。いつもは少しピリピリしていて鋭い視線を飛ばしているが、今日のシルビアは違う。横顔は普通の女の子だ〜角を除いて。


「シルビアって……可愛いわね(笑)」


「そんな……ありがとうございます。アルカ様はイブ様が好きなのですか?」


 アルカはドキッとした。カイル爺、イブ、どちらも嫌いではないし大好きだ。でもその感情が何の『好き』なのか……シルビアに言われて恥ずかしくなる感情もある。


「好きよ……だって勇者なのよ! シルビアはあまり知らないと思うけど、カイル様の時は……威厳あるし」


 焦って何かを否定している自分に気付いている。


 少しの沈黙…………


「ね、アルカ様。少し身体動かしませんか? 模擬戦やりましょう!」


「いいわね(笑)」


 勇者候補のシルビア……どれだけの実力なのか、はアルカも知りたかった。それに、このタイミングで提案されたこと……もしかしたシルビアは良い奴かも知れない。


「では背後取り模擬戦でいいですか? 魔法も格闘もありで」


 背後取り模擬戦は相手の背後に手形を付けたら勝ちという模擬戦。魔法有りというルールだと魔法が使えると有利になる、自分の手形を魔法で遠距離から打ち込めるからだ。


「シルビアも魔法は使えるわよね? ならいいわ」




 話がまとまると2人は対峙した。背中を付けて、自分の歩数でちょうど10歩歩く、そして対峙。お互いが地面に片手をつけると模擬戦開始である。


 シルビアは手をついている。アルカはそっと手をつく……試合が始まった。


 アルカは右に走る。すかさずシルビアが手形の魔法を放つ。魔法で防御、そのままアルカは近くの岩陰に隠れた。シルビアは背後に防御魔法を展開して待ち構えている。アルカは今度は左へ走る………


 手形の攻撃魔法を撃ちながら円を書くようにシルビアの右に回り込む、シルビアも応戦。今度はシルビアが岩陰に隠れた。


(この子、強い…………)


 勇者候補に推される位なので強いことは分かっている、想像以上だ。だが、魔法の威力は遥かにアルカが上、シルビアはかなりの疲労をしてるだろう。


 じりじと間合いを詰めるアルカ、突然シルビアは防御魔法を全面に展開して突進してきた……虚を突かれたアルカは出力を上げた魔法で応戦。格闘になるとアルカの方が分が悪い。シルビアの手がアルカを捉える瞬間……


 アルカは魔法で飛び上がった。最小限の跳躍〜そして背後に魔法を撃った。シルビアの背中には手形が残った。


「あー、負けちゃった。もうちょいだったのに(笑)」


「紙一重だったね。またやりましょ(笑) とっても面白かった! そうだ、アルカ様はもうやめてアルカって呼んで」


「はいっ アルカ!」

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