第21話 挿話〜魔王のハデスと勇者カイル
「ちきしょう……勇者がここまで強いとは……」
ハデスは窮地に追いやられていた。勇者カイル、魔法使いセフィロス、超戦士セイゼル、賢者ラフネ、誰もが最強でハデス一人では魔王軍を保つことは不可能。せめて、ハデスの片腕大黒魔道士のロロがいてくれたら……ロロは病気で急死してしまった。
「ハデス様…………カイルがやってきます…………」
「そうか……」
いよいよラストの時を迎える。魔王として、この世界に混沌と規律を植え付ける為に奮闘してきたが。
ドアが空いた、壮年の男か入ってくる。勇者カイルだろう〜王国との大戦は50年に渡っているが、勇者と相まみえるのは初めての事であった。
「魔王ハデスよ。これで終わりだな」
「貴様がカイルか このハデス、簡単にはやられん、お前も道連れだー」
ハデスはカイルに襲いかかった。カイルは桁外れに強かった。防備も剣さばきも、そして魔力も。ハデスは戦いを楽しんでいた……最後の戦いを。
「キサマー、受けてみろ、我が渾身の一撃を!」
捨て身の特攻をしたが〜カイルは全ての攻撃をかわし、宙に舞い上がった、刹那、背中を斬られた。これは……致命傷だとハデスは悟った。
そしてハデスは膝を折る。戦闘はもはや不可能。
「勇者よ、楽しかったぞ……ヤマトの奴にも感謝だな。こんな人生を送れて……」
斬られた背中から血が吹き出す。
「ハデスよ…………お前も転生者なのか!」
「あぁ 死ぬ前にヤマトや姫と会いたかった……」
ハデスの意識が遠のく…………
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「な?」
「ハデス、気が付いたか」
ハデスがカイルと同じ転生者と知って、カイルはハデスを助けた。それまで、ハデスはこの世界のバグだと思っていたのだ。
「カイル……お前も転生者か…………」
「あぁ、そうだ。姫さんかぁ……歳を重ねても衰えない美貌にアホな性格、懐かしい(笑)」
「お前、ヤマトや姫を知っているのか!」
「そりゃそうだ。転生者だからな」
ハデスは転生者であった。元の世界では生まれた時から難病を抱え病院生活、いよいよもたない、というタイミングで桜井博士がやってきた。そしてこの世界に飛ばされたそうだ。
「なぜ治した……」
「同郷は殺せんだろ(笑) まあ負けたんだから俺に服従してもらうが、異存はないな」
服従とは契約である。こうしろ、と言われると逆らえない。
「好きにしろ」
カイルはハデスの致命傷を治癒し、ハデスからの誓をうける。
「我、ハデスはここに勇者カイルの付き従うことを宣言する。我が命、存分にお使いください」
カイルはハデスの角を触って宣誓した。
「ハデスよ、汝は破壊に慣れ親しみすぎた。これより、一人の魔族となり、この時代を生きよ。そしてこの世界を楽しめ!」
ハデスは面を食らっている。カイルにしてみれば、こんな筋肉ムキムキで角のある大男を連れ回す訳にはいかない。恨みもかなりかっているはずだ。
「見逃すと…………宜しいのでしょうか」
「構わん。反逆したらまたお前を倒すから(笑) ハデス、そろそろこの宮殿を破壊する。だからお前も逃げろ、これで魔王討伐はおしまいだ」
この日、魔王の宮殿と共に魔王軍は討伐された。
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ハデスは宮殿を脱出し深い森の道を彷徨っていた。これから何をしよう……今の状態で盗賊に襲われたら落命は確実である。ハデスはまず回復に努めることにした、小さな荒れ果てた小屋を見つけたハデスは、そこに最後の魔力を注ぎ込んで結界を張り、眠りについた。
どれくらいの間眠っていたのだろう。ハデスは目を覚ました。眠りが深かったからであろうか、あまり記憶がない……だが、自分が魔王であったこと、勇者に討伐されたこと、そして勇者が見逃してくれた場面は覚えていた…………この世界を楽しめ、か…………。
目は開けたがまだ動けない。誰かが入ってきた。ハデスは警戒したが動けないのでは……為す術もない。結界を張ったはず、入ってこられるのは〜マスター級の魔法使いか魔族のどちらかである。
「あれ? 起きたのですか? 大丈夫?」
目のきれいな人族の少女に話しかけられた。
「お前、我が怖くないのか……」
「うん、おばあちゃんも魔族だからね(笑)。それに弱ってるから変なことでもしたら私でも殺せそうだし(笑)」
少女の言う通りである。
「間違いないな。安心しろ、私は人族に対して攻撃は出来ん。そういう契約をしてしまったからな」
「ふうーん、ね、助けてあげようか! その代わり私達を守ってほしいの…………」
「悪からは守れるが善からは守れん。そういう契約だから」
少女は少し考えている。
「多分守ってもらえるから助けてあげるね! 私、ナナカっていうの。よろしくね!」
80年もの間、眠っていたことを後日ハデスは知るのであった。
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