第20話 勇者の弟子

 対抗戦の概要が決まった。開催は予定通り7日後、今回は王城から政府の使者が来て観戦する。前日に王城の使者が主催する晩餐会が行われると事になった。


(ヤバい……王城の使者って、ミトルだったら一発アウトだな……)


 概要を聞きながらイブはふと考える。再生魔法の事を聞きつけて調査なんて可能性もあるが、王城にいた頃にはサンドラプリズンの話など聞いたことがない。それ程重要視していない施設であるから、政府の使者も小物であろう。


「マーリ教官、その、政府の使者ってイケメンですか(笑)」


「そんなの知らん。私は会ったこともないからな。王国医師団の方というのは聞いている」


 愕然とした。来るのは恐らく〜プラックかリヨンである。再生魔法を聞きつけて調査にくるのだろう。しかしこの容姿である、プラックはともかくリヨンは見破れまい。


「で、その晩餐会にも政府の方とか来られるのですか?」


「もちろん来るぞ。主催者だからな」


「何か楽しみ!」


 主催者は顔見知りである可能性が高い以上、先手を打って接触するに限る。見破られていたら交渉するしかない〜もしプラックやリヨンなら交渉の余地がある……薄気味悪い奴らではあるが。



 楽しかった合宿から戻ってはや1週間。対抗戦の対策もある程度進んできた。シルビアは勝つであろう、他の3種目で1つでも勝利すれば女子校の勝利〜クマコは魔法使いとしては強いので互角の戦いをするだろう。逆にリッカは不利である。ミコトは……絶望的だ。


 ミーティングが終わり部屋へ戻ったが、部屋の前にミコトとリッカがいる。


「イブ……お話があるの」


 何やら事件であろうか…………



 2人の話を聞いた。4年前、剣技の種目で仲良くしていた友人2人がテゾロに惨殺されたことを、リッカが涙ながらに話した。


「私達の恩人のイブには出てほしくない……だから私達のどちらかと替わってほしい…………」


 ミコトも涙を流し懇願している。替わって出場すれば命の危険があるというのに……。


「2人ともありがとう、私は大丈夫だから。テゾロを葬っていいかの確認はしてるし、これで意志が固まったよ〜私が仇を取る」


「そんな……相手は剣の達人、できる訳…………」


「分かった。2人には本当の事話すね〜私、勇者カイルの隠し子なの。だから強いのよ、パパから習ったの。そして剣は一番得意なんだ(笑)」


 2人はさほど驚かなかった。そして信じた〜普通に考えたらパパには無理がある、16年前も命が吹き飛びそうなお爺ちゃんなのだから……



△△△△△△△△△△△△△△



 イブはそろそろ潮時だと考えている。サンドラではたくさんの仲間と楽しく過ごせた。去るのはいいが、問題は……シルビアである。シルビアは正真正銘、魔王の子である。このままには出来ない。


「イブ…………いる?」


「シルビア? ちょうど良かった。お願いがあるの」


 扉を閉めるとシルビアは臣下の礼を取る。跪いたシルビアの角を軽く触れる。これが角を持つ魔族の服従の証である。


「何なりと……」


「私と戦いなさい! 本気で」


「何故…………ですか? 試されるのですか?」


「戦えば分かる」




 誰もいない格闘場。イブはシルビアと対峙した。イブは木刀を持ち、シルビアは鉄製のグローブをはめている。


「イブ様、本気でいいのですね……では…………いきます!」


 シルビアは拳を振りかざしてきた。速い! でもミリ単位で避ける。シルビアは本気で猛ラッシュ、それを全てかわす。


「どうしたシルビア、その程度? この程度で私の剣になりたいとは片腹痛いな(笑)」


 シルビアは魔力で身体強化をしている。流石に腹が立ったのだろう。凄まじい闘気、拳も力強い。そして、イブは木刀を握る手に力を込めた。


 一瞬の事であった。流れるような剣筋、飛び上がって背後に回り一筋を食らわす。


 シルビアは瞬時にかわしたが倒れた。木刀……であるがもう虫の息になっている。


「シルビア、ごめん。私はあなたの父を知っている……魔王ハデス あなたはハデスの子 私は……真の名をカイルという」


「…………だから……滅せら……れ……る のですか」


「そう、そして、生まれ変わりなさい」


「最後の……舞い、綺麗だった…………」



△△△△△△△△△△△△△



 シルビアは目を覚ました。ここは……イブ様の部屋。そして人の温もり、イブ様に抱かれている。


「あら、シルビア…………ごめんね。痛い思いさせちゃって」


「私は……誅せられのでは…………」


「いや、生まれ変わったのよ。あなたは今日から私の後継者になるの。いいわね」


「イブ様の?」


「いや、勇者カイルの後継者よ。私が居なくなった後もこの世界を守護してほしい」


 勇者カイルが存命なのは知っていた。しかしもう100歳を遥かに超えてる老人のはず……転生でもしたのだろうか。


「イブ様がカイル様?」


「そうなんじゃ(笑)」


 イブ様はシルビアにここまでの経緯を話してくれた。そして、対抗戦が終わった頃にはここを去ることも〜その時にシルビア共に……弟子として。

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