第19話 テゾロという男
「プラック様、ちょっと気になる報告が入っております。報告書にまとめましたのでご覧になってください」
「リヨン、どこからの報告だ?」
「サンドラプリズンからでございます」
プラックは報告書を読んだ。弱冠16歳で再生魔法を施した事が記載されてある。出身地不明、風俗組織の頭目で逮捕されている。名はイブ……。
「プラック様、再生魔法を2人ずつなど凡人では到底不可能です〜可能なのはプラック様か魔王か……」
リヨンの言いたいことは分かった。このイブという少女、カイル様である可能性が高い。もし違ったとしても、そんな逸材を野放しにしてはおけない。
「リヨン、直ぐに支度をしろ。私が直接会ってくる」
「心得ました。それとプラック様、プリズン男子校から特別な要望がきております」
リヨンはプラックの研究材料を色々なルートから仕入れている。サンドラプリズンはお得意様の1つ。
「なんだ? 意味のない釈放などは認めぬぞ」
「今度の女子校との対抗戦でテゾロを参加させたいと……」
テゾロ、殺人鬼である。もう10年ほどプリズンにいるが、女子校との対抗戦で対戦相手を4人も殺している。女子校の校長からの厳重な抗議があり、ここ数年は独房で鎖に繋がれているはずだ。
「なぜだ?」
「分かりません。プリズンがテゾロに支配された可能性が高いかと…………」
テゾロは只の殺人鬼ではない、剣の達人である。10歳の時に師匠を殺め、逃亡中に多くの人を殺している。
「よし、では許可しよう。私が対抗戦を観戦すれば死人は出ないだろう。丁度よい、この完成した薬も試したいしな」
テゾロと戦った相手が例え命を落としたとしても、プラックが蘇生をすれば良い。蘇生の薬の臨床試験も出来るかも知れない。薬がダメでも最終的にはプラック自身が治癒すればいい。
「では対抗戦の観戦という形でプラック様の公式訪問を企画します。ミトル様にはお伝えしますか?」
「いやいい」
この国の宰相であるミトル様。カイル様の話になると全てを放り出しかねない性格をしている。仮に人違いだった場合、面倒なことになる。
プラックは王国医師団長の視察という形でサンドラ対抗戦を観戦する事になった。
△△△△△△△△△△△△△△
「テゾロ、これでいいか。あとは王城の判断待ちだ」
「いいだろう。久々に人が殺せる! それも大観衆の前で」
今、サンドラプリズンの男子校はテゾロというイチ生徒に牛耳られている。シュウは校長として人質に取られた生徒を見殺しにする訳にはいかなかった。
「もし、戦う事が出来たら生徒は開放でイイな〜この契約魔法書にサインしてくれ」
「いや、開放するのは俺が殺した人数と同じ数だ」
テゾロは殺人を楽しんでいる。逮捕されたのはテゾロが13歳の頃。サンドラでは30歳を超えなければ死刑を宣告出来ない。テゾロは3度の対抗戦で女子校の代表者を4人も殺してしまった〜危険だと察知したシュウは、密かに抹殺しようと何度も試みたが……。
テゾロは凶悪犯罪者を集めて反乱を起こした。それも綿密に……。男子校には生徒会なるものが存在するが、そのメンバーを監禁しているのだ。そして……反抗した副会長は殺されてしまっている。
「おいシュウ、裏切ったら分かってるだろうな」
「分かっている」
生徒会メンバーの命もそうだが、一番危険なのはシュウ自身の命なのである。シュウが殺されれば生徒の反乱と見なされ、プリズンの生徒達は騎士団に全滅させられるだろう。それはどうしても避けたい……。
△△△△△△△△△△△△△△
マーリは男子校からの通達を見て愕然とした。テゾロを対抗戦の代表にするという。理由は更生したから〜そんな筈はない。同時に王城にも許可を求めているようで、こうなると王城の判断が優先され、女子校の抗議も意味をなさないだろう。ここは更生施設、なので更生を理由に出場とは……虚を突かれた。
「おい、イブはいるか?」
「はい! さっき起きまして……帰り支度をしてるところですけど」
イブはガサガサとスーツケースに物を詰めている。この島には売店がある、そこで色々買ったのであろう〜しかし大量に買ったものだ。
「話したい事があるのだが……荷物はシルビアに任せて、教官室に来てくれないか」
「分かりました」
マーリはイブを連れて教官室に移動した。
「話は分かりましたけど……そのテゾロって奴、そんなに強いのですか? でも多分私負けたりしませんよ(笑)」
殺人鬼で女子校全体の敵、テゾロの話をイブにしたがあまり意に介してなさそうだ。
「相手は殺人鬼で、剣の達人だぞ。既に10歳で師である自身の父親を倒している」
「そんなやつ奴早く抹殺すればいいのに……あ、だめですね。30歳になるまでは」
イブはあの男の恐ろしさがわかっていない。恐らく……剣を持たせたらサンドラで一番の使い手である。いくらハンデが課せられても……逃げ切れるものでもない。
沈黙が流れる。校長も生徒を4人もやられている。マーリと校長の無念の心境を察したのか、イブの口も重くなる。
「校長、1つだけ確認していいですか?」
重苦しい雰囲気を破ったのはやはりイブであった。
「なんだ」
「テゾロ、その場で殺しても構いませんか?」
「そうなることを女子校の誰もが望んでいる。奴は……生かしてはおけない」
「分かりました」
イブは頷くと勝手に教官室を出ていった。最後の言葉には……敵討ち、の決意のような響きがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます