第18話 一時帰還

 気力、体力が万全になった! イブは余命が少しだけ伸びたことを実感している。再生魔法で失った余命の半分は回復した感覚がある。


「おはよ、シルビア 今日はいい朝ね!」


「おはようございます。イブ様、あのー、お願いしても……」


 今回の合宿はシルビアと同部屋、そのシルビアからいくつかお願いされたことがある。1つは呼び方、どうしても様をつけたいと〜それは2人きりの時は許すことにした。もう1つも二人きりの時に行うことになったが……頭を撫ででほしいと。今まで厳しく生きてきたせいか、どこか甘えたいとか依存したい気持ちがあるのだろう。


「よしよし、今日も可愛いぞ!」


「はい! 私は今日も幸せです!」


 シルビアとの関係は劇的に変化をした。もし、男女であれば恋人通しの関係になるくらい親密になった。いつか真実を話さなければなるまい、イブは複雑な気持ちだ。


「ねえ、シルビア。お願いがあるんだけど、いいかな」


「はい、何なりと!」


「今日、夕方に学校戻るまでオフでしょ? それまで部屋で寝てることにしてほしいの。ちょっと出かけるところあってさ」


「別に構いませんが……見つかると嘘もバレるのでは?」


「それはない」


 イブは手のひらに刻まれた転移魔法の刻印を見せた。シルビアは一瞬、ハッとしたが直ぐに事態を飲み込んだ。


「あの、脱走……ですか?」


「心配するな、ちゃんと戻ってくるから」


「分かりました」


 合宿も最終日。今日しかなかった。サンドラ島は島全体に転移魔法が無効化される結界が貼られている。突破することも出来るが、魔法の痕跡がどうしても残ってしまう。この島にはその結界がない。少し遅れてしまったが、アルカに報告に行かなければ。


「でも1つだけ教えてください。何をされに行くのですか?」


「私には従者がいてね。いきなり逮捕されて島送りになっちゃったから、報告に行かないと」


「……私は…………イブ様を信じます……」


「ありがとう。もし、サンドラを出るような事があれば、シルビアは連れて行くから安心して!」


 シルビアが今にも泣きそう〜感激している。いくらアルカに引き止められても戻ってくるとしよう。



△△△△△△△△△△△△△△



 イブは早速転移魔法を使いノールダムに転移をした。イブが残した手順をアルカが守っていれば、予め購入しておいたアジトに居るはずである。


 ノールダムはサンドよりも少し小ぶりな街である。サンドは中世の西洋風なのに対して、ノールダムはオリエンタルな趣き。人種も様々である。エルフやドワーフといったファンタジー世界定番の人種もいるが、やはり多いのは混血である。混血が極まっていくと……なんと人族に近い容姿になっていく……生命は不思議だ。



 転移陣から少し北に行った場所にアジトはあった。アジトは……ごく普通の一軒家で大量に持っていたドラゴン魔石と交換したものだ。そっと中を覗く


(誰もいない………)


 まさか、全員逮捕されてしまったのか……。だがもし逮捕されたならサンドラに収容される確率が高い。イブは家の中に入っていった。


 家の中には生活感がある。単に留守だっただけのようなので、イブは書き置きをした。


〜親愛なるアルカそしてカナタ、マルンへ〜


 私、イブは元気にしている。今はサンドラ島にある監獄に囚われているが、不自由にしてるところはない。皆はどうしているのだろうか。とても心配だが、私は3人を信じている。色々あって、一度監獄に戻らなければならない、でも必ず戻ってくるから安心してほしい。


 最後に……少し金子が不足しているので魔石を少しばかり持っていく。まあ、ファフニールのやつ売れば使い切れないお金になるけどね。


 では…………愛を込めて、イブ




 書き終えたときに誰かが入ってきた……。


「……どちら様ですか?」


「あ!」「あ!」


 同時に気付いたようだ。この子は確かミル。スラムでスカウトした時に母の看病を理由に断られたスレンダー美人。


「ミルちゃん?」


「はいっ。イブさんですよね…………」


「元気そうで良かった……みんなは?」


「3人でお仕事に行ってます」


「お仕事って……まさかレンカノ?」


「違います。魔物退治です」


 レンカノではなくてホッとした。しかし、魔物退治とは……アルカが居れば大丈夫だろう。


 この世界に冒険者ギルドなるものはない。まだ現役の勇者の頃に何度か設立を試みたが、うまく機能しなかった。その時に同時に開設した魔石や貴重な素材をやり取りする交易所は定着している。


「ではまだ帰って来ないね……」


「お戻りになったわけではないのですか?」


「そうなんだ。今、サンドラの監獄に居てさ、そこで世話になってる人もいて〜頃合いを見て帰ってくるから……アルカにはそう伝えておいてくれない?」


「分かりました」


「そういえばお母さんはどうしたの?」


「…………だめでした……」


「そっか…………ミルちゃんが、お母さんの分まで幸せにならないと、ね。私も手伝うから……」


 ミルは涙を堪えている。ミルを抱きしめた後、イブはアジトを後にした。

 

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