第44話 急転直下

 旅立ちの朝が来た。アルカは夜明けに目を覚ました。これからシルビアと模擬戦……これは日課となっている。登る朝日は眩しく、雲ひとつない快晴の空を赤く染めて行く。


 模擬戦の支度を終えて外に出ようとした。


(よしっ!)


 気を引き締めて、これまた日課である同室のイブに声を掛けようとした…………その時に初めて異変に気付いた。


「イブ! いやカイル爺! イヤーッ…………」


 そこに横たわっていたのはイブではない……カイル爺であった。息は……ない。アルカはパニックになったが、咄嗟に回復魔法を力の限りアルカ爺にかけた。


 すぐに別室のシルビア、カナタ、マリアが駆けつけてきたが、アルカは泣きながら回復魔法をかけた。


 3人は呆然と立ち尽くしている。暫くすると、カイル爺の脈は戻った。それを見た3人は一斉にカイル爺の手を取る。


「ご…めん…な…………そろそろじゃ…の…………」


「そんなぁ……」


 アルカは思い立った。プラック様に診察して貰う他はない、だが、この状態で転移魔法は危険である。どうにか王城にお連れする方法を……


「カイル爺、少しだけ待っててね。今から王城にお連れしてプラック様に診てもらうようにします」


「アルカよ…………もう、転移は無理……いいのじゃ……」


「ダメです! 私がダメなんです! 待っててください」


 アルカはその場で転移魔法を唱えた。そしてギガントコンドルの棲家にやってきた。そこには……ギガントコンドルが待機していた。まるで待ち構えていたように。


「ミーミーちゃん、お願いっ。カイル爺を王城に連れていって……」


 アルカが懇願すると、ギガントコンドルはアルカをクチバシでつまみ背中に乗せ、ミスルの街目掛けて飛び立ったのだ。



△△△△△△△△△△△△△△



 シルビアは理解していた。こんな日が来ることは分かっていたがこんなに突然に来るとは……。一縷の望みを掛け、アルカを待つ他ない。いきなり街が騒々しくなった。シルビアは窓の外を見た〜何かがこちら目掛けて飛んでくる……ミーミーちゃんだ。


「カナタ、マリア、アルカが戻ってきた。勇者様を外に運ぼう」


 シルビアは勇者様の姿になってしまったイブ様を掛け布団に包み宿の外に出た。ちょうど宿の外に出ると巨大な影がタイミングよく降りてきた……その光景を目の当たりにした街の人々は騒ぎながらも様子を伺っている。


「シルビア、早く!」


「わかってる」


 素早く5人はギガントコンドルの背中に乗った〜そしてミーミーちゃんは王城の方向へと羽ばたいていった。



△△△△△△△△△△△△△△△



「ミトル様、大変です! ドラゴンと思われる巨大な生物が王都に向かっているとの連絡を受けました」


「なに? 直ちに臨戦態勢を取れ!」


 その日は快晴、昼過ぎ聞き捨てならない報告が入った。もう少しで肉眼でも確認できるという……ミトルは王城のバルコニーでドラゴンが来る方向を見ていた。黒い点のようなものが見える……遠視の魔法を使ってそれを見てみた。


(あれは……ミーミーちゃん、そして…………)


 ミーミーちゃんを見たときに悟った。カイル様を乗せてきたのだ。すぐに王都の守備隊長を呼んだ。


「おい、あれはドラゴンではない。カイル様だ。攻撃は厳禁だ、王城に直接降り立つだろう。プラックはいるか!」


「ミトル様、ここに……分かっております。受け入れ態勢は万全です」


 ミーミーちゃんで王城に来るとは、カイル様の容態は転移魔法にも耐えられない状況なのだろう。ミーミーちゃんは王城の大きな中庭に降り立つはず、ミトルとプラックは急いで中庭に向かった。




 大きな羽とクチバシ、40年前からは想像もつかないような大きさに成長したギガントコンドルが中庭に降り立った。


「ミトル様、カイル爺が……」


「分かっておる。救護班、すぐにカイル様をお部屋に運べ。プラック、頼んだぞっ アルカ、お前は従者なのだ。早くカイルの部屋へこい」


「我々勇者パーティ全員で向かいます」



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 カイルは目を開けた。懐かしい光景が広がっている。自室? なのか……そうだ。誰かがカイルの手を握っている……それは目を腫らしている、ミトルだった。


「ミトル…………」


「カイル様……」


 部屋の片隅にはプラックがいたが……静かに部屋から出ていった。それでカイルは悟った、終わりの時が来たのだと……。


「とうとう……お別れじゃの…………今まで……ありがとう」


「カイル様…………」


「泣くでない(笑) 私は……次の人生が楽しみじゃ」


「カイル様…………」


「すまんの…………最後にミトルに会えた……アルカには礼を言わねば……後のことは頼むぞ…………」


 カイルはそっと目を閉じた。



△△△△△△△△△△△△△△△



 アルカはカイル爺の部屋の外で待っていた。プラックが治療している。そしてプラックが扉から出てきた。


「プラック様、カイル様は…………」


 プラックは力なく俯(うつむ)きながら首を横に振った。アルカは何がが心に刺さったような衝撃を受けた。


「アルカよ、最後はカイル様とミトル様、2人にしてあげよう…………」


 その言葉にアルカは力なく崩れ落ちた。涙が止まらない、何故急にこんなことに……無理をさせすぎたのか、カイル爺がしたい7つのことは何個出来たのだろうか、これからどうしようか…………思考が巡る。


 その時、親衛隊の数名がやってきた。


「プラック様……王様が目を覚まされました! 至急お越しください」


「まことか!」


 プラックはその報を聞いて走り去ってしまった。これは……カイル爺が最後に起こした奇跡なのかもしれない、とアルカは思った。


 そしてその日の夕方、王城には半旗が掲げられた。

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