第43話 聖女マリア

「イブ、2人だけで話がしたいって……なに?」


 アルカはイブの自室に呼ばれていた。2人で話す時は決まって重い話である。


「アルカ、まずはこれを……」 


 アルカはイブから金色に輝く杖を渡された。杖の上部には玉虫色の水晶が付いている。見るからに強力な武器であり、魔導具である。見とれてしまう……


「あ、ありがとう……」


「アルカにはいつも感謝しとる。そのお礼かな。これは特殊な木を細工して作った、だから折れないし魔力が枯渇することもない」


「もしや、あの時の変な木……」


 アルカが王城の宝物庫から拝借した木の棒、こんなものになるとは……


「アッタリー 永久(とこしえ)の杖という。勇者の勇者たるアルカに相応しい。セフィロスも同じ杖を持っていたな(笑)」


「一生大切に使います!」


「ライトサーベルと同じく、壊れる類のものではないから、安心して酷使してもいいぞ(笑) ところで、本題だが……このあたりで勇者パーティのメンバーを確定させたいと思う」


「バランス的には神官あたりを追加するのですか?」


「そうだ。魔力持ちの原石を発見したんだ。今は何も魔法など使えないけど、鍛えればきっとモノになる」


「で…………もしやあのユリアーナって子を? 話はカナタから聞いてます、とっても心優しい子だって。大丈夫なのですか?」


「私の判断が間違っていたこと、今まであったか? カナタは勇者パーティの一員としての資質を決闘で見せてくれた。賭けに出た訳だが勝算あってのこと。でもユリアーナについては確信がある」


 カナタの事は聞いていた。決闘でマッカを殺してしまったら勇者パーティへの参加は認められなかった。もちろん負けていてもだ。


「そこまで言うなら……」


「アルカには今後の話をしておこう。話し合いで帝国に行くことを決めたね〜そこにトルデという高名な神父がいる。そこにユリアーナを預けてくるのだ、次に3人が身につける防具や装飾品を見つけてくれ、それも課題だ」


「なんか遺言みたい(笑) まだ元気そうなんだから、ちゃんと引率してくださいね そうしないと老いぼれちゃいますよ(笑)」


 アルカの中には一抹の不安があった。イブは無駄な事をあまりしない〜この指示が必要なことだとすると……


「あまり老人をいじめないでくれ(笑)、まあその他のことはミトルに話してあるからな」


 イブは元気そうだ、やはり思い過ごしだと感じた。



△△△△△△△△△△△△△△△



 ユリアーナの毎日の日課は、朝夕の礼拝である。教会までは自宅からさほど遠くはない。お父様は少しずつ元気になっている。そのお父様からはイブ様の元で神官として学べ、と言われた。正直不安だらけ……でも祈りを捧げている時は不安も解消される。


「ユリアーナ、ここ、好きだな」


「イブ様 おはようございます」


「信心深いことだ。ヤマトも喜ぶだろうな(笑)」


 ヤマト神を呼び捨てとは……なんと不敬であろうか、やはり勇者はヤマト神と並ぶくらいの伝説なのだからか。ユリアーナは少し混乱していた。


「祈りを捧げると不安も和らぐのだろう。今日はヤマトについて話してあげよう。祈りながらでいい、聞きなさい」


「…………」


「ヤマトは……神ではない。こことは違う異世界の人間だ。私はヤマトを知っている、常に一緒だったからな。若い頃、戦争で英雄になったりもしている〜だが、晩年は科学者だ」


 衝撃の事実……意味が理解できない、ではない、頭の中で理解するなと拒否しているようだ。


「…………」


「本名を桜井ヤマトという。彼は異世界のテクノロジーを駆使して沢山の異世界を作ることに成功したんだ。そのひとつがココ、A7と呼ばれる世界。だからヤマトはこの世界では神に相当するかな」


「ではイブ様も神なのでは?」


「私はこの世界の不具合を調査しに来た調整者ってところ。魔王という不具合を正すために派遣された……魂」


「イブ様はそろそろ元の世界へ戻ると言うことですか? それがこの世界で言うところの死……」


「いや私は……私の魂は元の世界には戻らない。戻れないようになっている。だが、この肉体が滅びたあとに自分がこの世界に転生することは知っている」


「やはり……イブ様は神様です」


「いや、そうプログラミングしてあるだけだよ(笑)。それもこのカイルとしての記憶を忘れて、この世界をイチから楽しめるようになっている」


 イブ様が話していることはよくわからない、が、転生という摂理でさえも決められる神のような存在だと認識した。


「そこで、ユリアーナにお願いがある。私が転生したあと、私を見つけてほしいんだ。このカイルの記憶は生まれ変わった新しい自分の中で封印をする、だから私を見つけて導いてほしい……」


「そんな大志、私には過分すぎて……」


「だからその為にユリアーナには師をつける、帝国領内にいるトルデ神父に師事しろ。そうだな……ユリアーナ、今日からマリアと名乗れ、生まれ変わってこの世に尽くしてくれ、そして私を探して」


「承りました。でも探すと言っても……」


「そうか、私から転生について分かってる情報は……来世は女ってことだけかな。あとある程度の魔力持ち。記憶はないが、マリアが探してくれれば記憶は蘇る、かも知れん(笑)」


「ではイブ様が転生されて15年後に魔力持ちの少女を探せばいいのですね。しかし……何故女性なのですか?」


「実は、異世界で私は……女性だったんだよね。だからこの世界では子孫は残せなかった、という落ちだ(笑)。今日伝えたことは他の3人には言わないように!」


「分かりました。1つだけ気になるのですけど、マリアという名前、王国にはたくさんいそうな名前ですよね、私のような者が名乗っても大丈夫なのでしょうか?」


「それは大丈夫、このマリアという名前は……命名出来るのは私だけなんだ。他の誰も命名出来るものはいない……私が居た異世界の聖女の名前。そうプログラミングされてるから(笑)」


「では、最善を尽くします(笑)」


 ユリアーナはにっこり笑いながらも気が引き締まる思いであった。

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