第8話 アルカの御守り
「では従業員の皆さん!、私達のレンカノ店の店名を大発表しちゃいます!」
パチパチ
「その名は……PKどりーみん…………はい、拍手!」
パチパチ パチパチ
「では張り切っていこー!」
あまり盛り上がりはない、が、イブは機嫌よく営業に出かけた。アルカはこの仕事にかなりの抵抗があった。しかしデックとのデートが意外にも楽しく、更に色々話をすることでデックの役に立っていることに気がついた。恋愛相談の専門家のようで、当初の嫌悪感は薄れていた。
「アルカ、私達はお客さん探しに行かなくていいの?」
「それはイブがやってくれるわよ、待ちましょ!」
カナタとマルン、素性も知らないスラムの少女であるが、善良ではありそうだ。大人の中で生きてきたアルカにとって同年代は関わる事自体が新鮮であった。
どりーみんがオープンして2週間程が経った。イブが厳選してお客さんを連れてきてくれるので、当初アルカが心配していたようなトラブルはなかった。各メンバーにも固定客が付くようになり、大繁盛している。
「それでは本日もどりーみん、オープンです。 みなさん、張り切っていきましょう!」
アルカは本日、デックに紹介されたノーンという男性とデートの予定。隣町まで行き、今話題になっている歌姫、ネムネムのステージを観に行くことになっている。サンドから隣町のノールダムまでは高速馬車で片道3時間、1日拘束される仕事である。
「ノーンです。今日はよろしくです」
見た目も良いし好印象。懸念といえば馬車での道中、最近盗賊が出るという街道を通ることである。もちろんアルカは強いが、お客さんを庇いながらの戦闘は出来れば避けたいところである。
「ネムネム、とっても楽しみです。よろしくお願いします」
道中の馬車では会話が弾んだ。共通の知人、デックの話で、である。馬車はちょうど街と街のちょうど中間にあるテム川の橋に通りかかった。その時である……爆音と共に馬車の車輪が吹き飛んだ……盗賊が襲ってきたのである。
「アルカさん……」
「大丈夫、私こう見えて結構強いのよ」
既に馬車の御者は襲われている、生きているかは不明だ。大勢の盗賊が馬車の中を伺おうとしている。
「お、いい女が乗ってるぞ。ラッキーだな。こりゃ高く売れそうだ、運が悪かったなお嬢様ちゃん。お頭、男の方はどうしやすか?」
「女は生け捕り、男手は足りてるから殺してしまえ」
「だとよ、不運なカップルさんだこと。あばよ……」
アルカがノーンを救おうと動いたその時である……風が吹いた気がした。
△△△△△△△△△△△△△△△
アルカの危機を知らせる映像が頭の中に流れてきた。イブはその光景を見てカッとなった。
(私の可愛い相棒をよくも…………)
お守りの効果で風が吹き、イブは瞬く間に映像の現場に着いた。そして、怒りに任せて、盗賊〜25名ほどだろう、を瞬時に叩き切った。
「イブ…………」
「アルカ、大事なないか? ノーンさんも……」
2人は無事であった。怪我もなさそうである。イブはアルカを抱きしめた。
「イブ……盗賊達は、もしや全滅…………?」
「うん。心配ないよ、殺してはいない。全員不能にしておいたから……ところで御者は?」
デックさんが指差した場所に御者か転がっている。もう息も絶え絶えで瀕死である。イブは御者に近づいた。
「運転手さん、ちょっとまっててくださいね」
あまりやりたくなかったが、イブは蘇生を開始した。蘇生は大量の魔力を消費する。だが、助かる命をそのままにすることは出来ない……元医師として。
幸い、御者は息を吹き返した。
△△△△△△△△△△△△△△
イブが現れてから盗賊は倒され、御者が蘇生するまで僅か1分程の時間、アルカは呆然とした。
馬車の外に出ると30名近い盗賊が気絶している。一部悶絶している盗賊もいる。イブが「殺していない」というのは本当のことのようだ。なんて寛容な御仁なのであろう、やはり勇者は勇者なのだ。
「イブ、ありがとう 盗賊はこのまま殺さず逃がすのですか?」
「そうだね。私はどんな理由があろうと、人の命を取らないように心がけているの。元医者だしね(笑)」
話をしているときにノーンが顔面蒼白になっている。そしてノーンが口を開いた。
「イブさん、盗賊をお一人で?」
「まあね。コイツラ弱かったし(笑)」
「で……全員不能にしたとは……もしや」
「ノーンさん、察しがいいねぇ! もちろんチョン切ったってことよ(笑) まあ大金払えば再生出来るとは思うけど(笑)」
アルカはよくよく倒れている盗賊を見た。全員が股間から血を流している。それに気付いたのでノーンは顔面蒼白になっていたのだ。イブは口を開く……
「これは秘技、宦官切り です♡」
イブは優しくなどないことが身にしみてわかった気がした。お守り効果は、チョン切り〜こういう意味だったのか……。
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