第38話 影の軍団

 共和国首都、ミスルに到着した。アルカは驚きを隠せない。ミスルは大きな外壁と大河に囲まれている城塞都市であるが、出入りは自由である。中央には大きな城が聳え立っていて、地面には石畳みが敷き詰めてある。所々に屋台があり、人々は何やら黄色と白の飲み物を飲んでいる。


「イブ、ここは綺麗な街ね。王国とはまるで違う……あの人達は何を飲んでいるのかしら?」


「あれは共和国名物のビーアだよ。まあなんだ、お酒だ。アルカも飲んでみたいのか?」


「だから楽しそうなのね(笑) 私は……遠慮しとく」


 アルカは16歳、王国では15歳になると大人として扱われる。アルカもお酒を飲んだことはあるが、あまり好きではない。


「そうそう、共和国ではお酒は20歳を過ぎないと飲めないんだ。ビーアはやめておこう。アルカ、そろそろ王城まで転移魔法は使えそう?」


「うーん、もう少しってところ……結局さ、キャナルよりミスルの方が遠いいでしょ? そこが壁になってると思うんだ。どうしても遠方って先入観があって……」


「そうね。ではもう少し待ちますか(笑)」


 イブはそう言うと後ろを歩いていたカナタの傍に行き、何やら話をしている。恐らく仇討ちの相談であろう。首都ミスルにはカナタの仇敵がいる、仇討ちとなるとキチンと公共の機関に届け出て受理されなければならない。当然だ、殺し合いをするわけだから。


「アルカ、いよいよミスルね」


「シルビア、ぶっちゃけカナタってどうなの? ちゃんと勝てるの? 数ヶ月の剣の稽古で……」


「アルカは心配なのね(笑) 信じましょう、カナタとイブ様を……」


 


 まずは宿を決めた。ミスルは広い、まずは情報収集をしないとならないが簡単な事ではなく、相応の時間は必要である。宿は1階に比較的大きな酒場がある宿を選んだ〜情報収集の為である。


「ではみなさん、これから第一回ミーティングを行います!」


 イブが借りた宿の1室にメンバーを集めた。イブはいつもふざけているようだが、指示は的確である。


「ここミスルに来た目的はカナタの仇討ち。それはいいよね。でも残念なことに時間がそれほどありません。と言うのも、この共和国に勇者の子孫が来た事が知れ渡るのは間近で、そのパーティーメンバーの仇討ちとなればきっと相手は決闘を受けないからです」


「質問! 何故時間ないと言い切れるのですか?」


「説明しよう、話は簡単。共和国内で勇者の子孫って名乗ってしまったし、いづれそれが女子4人のパーティだとも知れ渡る。そうなるとカナタの存在もバレる。問題は正確な情報の伝達速度だけど、あと5日くらいかな……それまでに決闘の許可を取りつけたいのです」


「質問! カナタは……その、勝てるのでしょうか?」


「アルカは心配性だなぁ。不正がない限り負けることはない。万が一負けても私が蘇生させるから♡」


「質問! で、私はどうすれば?」


「うーん、手分けして動きましょう。アルカとカナタは決闘の申請に向かって。私とシルビアは情報収集かな。特に決闘相手であるマッカ議員の情報が欲しいから、屋敷を調べて聞き込みしてくるよ」


 話はまとまった。早速アルカはカナタを連れて役所へ向かった。



△△△△△△△△△△△△△△



「何? 私に対し決闘の申し入れだと?」


 マッカは耳を疑った。聞けばもう10年も前のことで、事実確認の連絡を受けた。確かに……10年前、ある村で略奪に参加して暴れた事がある。その村1番の美女を戦利品として持ち帰ったが、ミスルの屋敷に来て3年後、難産のため死んでしまった。その時の娘からの決闘申し込み、正直かなり複雑な心境である。確かに父親は殺してしまったので決闘理由としては至極真っ当である。


「どうしますか? マッカ様」


「娘ってことは17歳くらいか? あまり気が進まんな……私は騎士だぞ、若い娘を殺すのは……」


「手加減されて、慈悲を与えたらどうてすか?」


「そうだな。騎士なのに決闘を受けないのは世間体が悪い。受諾しておけ。細かい取り決めは任せる」


 決闘相手の年齢はユリアーナと同じ10代だろう。決闘が行われる闘技場には必ず家族を呼ばないとならないが、ユリアーナの前で少女は殺せない。騎士相手に決闘など、フザケている〜例え少女とて許すまじ、とは思うが……事実を抹殺するためにはひと思いに、とも思う。ユリアーナは騎士の娘、社会勉強にもなるだろう。


「では、仰せのままに……」



 執事が下がって少しするとケムルが現れた。どこからともなく現れる、気持ちの悪い奴である。


「マッカ様、ご報告です。まず、タイルですが、予定通り処理をしました。そしてタイルを陥れた少女4人組ですが、勇者カイルの子孫と名乗っていたそうです。なかなか跡が追えないみたいで、どこかに潜伏していると思われます」


「義軍だな。勇者カイルに子はいない、いや、出来ないと聞いた事がある。そんなお触れで反組織を作られたら困る、その前に消してしまえ」


「分かりました」


 王国、そして帝国にまでも勢力を伸ばしつつあるトコヤミ。そのトコヤミに仇なす者を掃除するのがマッカの仕事である。決闘も含めて立て続けに厄介事が増えた……マッカは溜め息をつく。

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