第36話 カナタの剣

「ではこちらへ……イブ様」


「うむ」


 イブはキャナルの町にある宮殿の応接室に通された。ここ、キャナルはその昔キャナル家が治めていた領地であった。共和国になってからも立派な宮殿だけは残され、行政の中枢になっている。


「イブ様、今回のご尽力ありがとうございました。奴の屋敷から70名ほどの少女を救出しました。そのうち45名がそれぞれの家に戻りました」


「そうか。で、その他の25名は? 身寄りなどはないのか?」


「身寄りのないものと、帰りたくない者が残ってます。他のお店に振り分ける事を考えてますが……」


 それでは助けた意味がない……せっかく正体を明かして(偽であるが)解決したのに。


「おい、タワワ。その25名の少女、ノールダムにある施設で預かってやってもいいぞ……だが、ノールダムまでは遠いか……」


 タワワは少し考え込んでいる。


「イブ様、もし、私にお命じ頂ければ少女達をノールダムに送りましょう。いかがでしょうか……」


 悪くはない提案、ではあるがノールダムは女の園である、あまり男性に関わらせたくはない。ひとつ問題もある、どうやってノールダムまで少女達を送るかという問題である。転移陣で移動させるのはイブの体力が持たない、アルカにはこの距離の転移はまだ無理だろう。


「それはいい考えだが……タワワよ、私に誓いができるか? ノールダムの孤児院は女性ばかりの施設だし、今回連れて行くのも少女達、間違いがあったらいかん」


「はい、分かりました。イブ様に信頼されるように去勢をして参ります。それで宜しいでしょうか?」


 タワワ……自分で切るのか? その言葉をいたく気に入ったイブはタワワに任せることにした。ノールダムの施設にそのまま警備兵として勤めることも許した。



 イブは25名の少女を集めて説明をした。ノールダムに到着後、孤児院に働くも良し、プリズンで勉学に励むのも良し、そこで決めて貰うことに。


 あとはタイルの処遇であるが、共和国議長宛に書簡を出し裁決を委ねることに……これで一件落着である。



△△△△△△△△△△△△△△



「どうしたのアルカ、相談って……珍しいわね」


「はい……色々考えてしまうことがあって……私、このままでいいのでしょうか? 強くなってないというか、勇者の勇者になるべくもっと強くなりたいのに」


 アルカは自身の力量に疑問を感じていた。カナタは異次元の強さを手に入れた。シルビアもレッスンをつけることで身のこなしに無駄がなく確実にレベルアップしている。だが自分は……


「アルカは物理的な強さを望みたいのかな? うーん、じゃあ少しセフィロスの話をしようか。セフィロスは私の中の英雄だった、単純な強さなら勇者の方が遥かに強い。でもセフィロスは気配りや優しさ、考える力どれを取っても最強だった。本当に心から尊敬したものだよ(笑)」


「それでも、私、力不足な気がして……」


「ではそろそろアルカには魔法の深淵を教えよう。魔法とは……イメージなのは分かるよね?」


「はい……」


「ではこの場所から王城の魔法陣へ転移することは出来る?」


「いえ、さすがにこの距離だと無理です」


「イメージに距離とか重さとか関係あると思う? ないでしょ? だから基本的に何でも可能なんだよ。それは転移だけでなく、炎も氷も雷も同じこと……限界を超えた魔法〜これが極大魔法って呼ばれるものなの。そして異世界から転生してる私はそれが容易に出来る」


 魔法の勉強は全て真似ることを徹底される。そこにイメージを乗せることで魔法は発動する、と教わってきた。初耳だ。


「私でも極大魔法が使えるってことですか?」


「うーん、それは異世界転生者以外は難しいんだ。でもそこにセフィロスは到達した。だからアルカにも資質はあると思う……トライしてみる?」


 アルカは即座にイブにお願いをした。魔法とこの世界の常識が基本となっている。その常識を守りつつ、常識を覆すイメージを持つ。これが出来た時極大魔法でも何でも出来るようだ。


 トレーニングはとても単純。アルカが転移魔法を使って王城に行く、これのみである。魔法の常識からするとそれは不可能だが、それを出来るようにするだけ。早速、その訓練を行うことになった。



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 カナタの特訓が良い方向に導いている。シルビアは弱点である「冷静さ」を「教えること」で理解してきた。アルカもカナタの成長が刺激になっている。そしてカナタは……猛烈にイブのイメージ通りになっている〜そう、あの、前世で大ヒットしてたハリウッド映画の緑色のマスター、である。


(うん、カナタの剣は、あれにしよう!)


 イブはそう決めていたが、その剣を作る素材を入手するには……アソコしかない。その為にはアルカが王城まで転移出来るようになると好都合。それを待つことにしよう。必要なものは……この世の貴石、魔封石と幻の鉱石ミスリル。それが揃えばイブが剣を組み立てる事が出来る。


「カナタいる?」




「何でしょう? イブ様」


 カナタは相変わらずトレーニングをしていたようで、イブが呼んでから十数分してからやってきた。


「おー、カナタ。剣はどうなった? もう駄目か?」


「そうですねぇ。この前の戦いで刃こぼれが酷いです。大切には使ってるですけど……」


 カナタは剣を抜いてイブに見せた。剣先の刃こぼれが酷い、だが、イブであれば修復が可能なレベルである。


「カナタ、この剣は……カナタにとってはどんな剣?」


「はい。アルカに選んでもらった大切な剣です。でも……いつか買い替えないとならないですよね?」


「大切なものなら直してあげるよ。でもこの剣ではカナタの力量にはついていけない。だからカナタが使う必殺の剣は私が用意するよ、楽しみにして(笑)」


 結局、今使っている刃こぼれした剣をイブは受け取った。そして、その剣を直す〜転生者のイブにとっては造作もない事、その剣に魔法を乗せてイメージすればいい。


 カナタの力量に合わせるには、この刃こぼれした剣に数回の魔法を付与しないとならない。それが出来れば、普段使いの剣としては十分である。


「ではどちらも楽しみにしておきます(笑)」


 イブも楽しみだ。

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