第5話 葉っぱの魔物
ハンスは詰め所でお茶を飲んでいる。今日も平和、このコーバンと呼ばれる詰め所をハンスは気に入っている、何せここサンド出身の勇者カイル様が発案された場所である。
この街ではあまり事件が起きない。魔王と戦っていた時はハンスも戦場に出向いたが、ここコーバンでは時間まで勤務して家に帰る、というルーティンの繰り返しである。大きな事件など起きない…………はずが、
「ハンスさん、市場の方で大きな騒ぎが起きてるよ」
「また酔っぱらいの喧嘩か? にしては時間が早いなぁ」
「いや、葉っぱを4枚だけ付けた少女と葉っぱだらけの少女がオトコに絡まれてて……」
「え、なんじゃそりゃ? とりあえず少女は助けに行かないとな」
「それが……返り討ちにあって……」
ハンスは嫌な予感がした。最近は魔物も増えている。もしかしたら……少女の姿を模した魔物……。ハンスは判別の杖を持って市場に向かった。
ハンスが市場に着くと、いたいた、葉っぱの魔物。誰も近づく様子もなく闊歩している。幸い人通りはそれほどでもない。
「待ちたまえ。君たち」
葉っぱの魔物と覚しき2人の少女はハンスと向かい合う。葉っぱの薄着の少女と厚着の少女。判別の杖を差し伸べるが反応がない。どうやら人族とエルフ族のようだ。
「何か? またナンパ?」
「いや、私はこの街のオマワリさんだ。そんな格好で何をしている!」
「あー、オマワリね。あのね、街の北東の火山に行ったらさ、ドラゴンが出てきちゃって……服を燃やされちゃったの。なので道具屋で素材の換金をして服を買おうと思って……」
ハンスは警戒した。怪しい……幼い少女が威風堂々としている。まるでマスター級の指導者のような。
「オトコに絡まれていたのではないのか?」
「あー、あれね。気色悪いから半殺しにしておいたよ。強引に胸なんか揉むから…………」
薄着の少女には……胸の膨らみは、ほぼない。
「あー、今、私のこと貧乳とか思ったでしょ。いくらオマワリだって触ったら半殺しにするわよ」
「ちょっと、サオリン……やめなって 人だかりになっちゃう」
葉っぱに包まれた少女が話に入ってきた。
「そーね。ね、そこの人、私達を道具屋まで護衛して頂戴! ナンパされすぎてイライラしてるの」
ハンスは話の内容と杖の状況から人間とエルフと判断した。今解決すべき問題は……少女達の服装である。
「お前らなぁ、そんな格好じゃ声もかけられるだろ。道具屋まで連れて行ってやる。大人しくついて来い」
ハンスは道具屋まで2人を連れて行った。道具屋に入ると薄着少女が道具箱から、ドラゴンの鱗、を取り出す。それも3枚も……道具屋の主人も驚いている。
「3枚で25万リル、いいかな? で、服がほしいんだよね。どれにする?」
道具屋の主人と2人の少女のやり取りをみている。怪しい事この上ない、あんな鱗、きっと盗んできたに違いない。葉っぱ服も口裏合わせの可能性が高い。
「ではこれで。キャー似合うじゃん、アルカ!」
「サオリンもね(笑)」
まともな服に着替えて2人ともとても美人であることにハンスは気づいた。きっとどこかの家出令嬢とかで、ドラゴンの鱗は家にあったものを持ち出したのであろう、と推測した。
△△△△△△△△△△△△△△△
カイルは変身して初めて自身の姿を見た。葉っぱの下着の上から購入予定の服を着て、姿見鏡の前に立った……
(これ、天使じゃん! 勝ち組容姿! 胸はあまりないがスタイルは抜群)
少し丸顔で目鼻立ちがクッキリ。幼い顔立ちだが、ブロンドヘアーが幼さを覆い隠している。笑ってみると……あどけない、何とも言えない幼さが顔を出す。
「ねね、アルカ。私、ヤバくない? 超カワイイ!」
「今更気付いたの? サオリン……」
サオリン……この容姿でサオリンは似合わない。カイルの知るサオリンはクールビューティー、おっとりしたお嬢様タイプで大人の色気もある……。
「アルカ、私は今から改名する! うーん、何がいいかなぁ…………じゃあイブって呼んで!」
「え、なにそれ?」
「うーん、容姿的にサオリンじゃないんだよね。だから改名! よろしく(笑)」
このやり取りを例のオマワリは注意深く観察している。あの目、明らかに犯罪者を見ている目である。大方、ドラゴンの鱗を盗んできたのでは、と考えているのだろう。
「君達、そのドラゴンの鱗はどうしたの?」
(きたきた……)
「えーと、火山の近くで拾いました。かなり道に迷ってしまって。死ぬかと思いましたけど、何とか」
「あ、そう。1枚見せてくれるかなぁ」
今度はニセモノを疑っているのか。完全に怪しまれている……が、カイルいや、イブは機嫌がいい。
「ありがとう。これからはあまり目立たないように行動するように……この街で犯罪は許されない。勇者様の出身地なんだからね」
オマワリから長めに説教をされた後に開放された。その後、イブは宿屋を探し始めた。
「アルカ、しかし参ったなぁ。あんなに足止めされて。宿屋なんてどっか空いてるかなぁ……」
「見つかるまで探しましょう。私、トイレ小屋で寝るのはもう勘弁です(笑)」
まずは旅の宿、という宿屋に入ってみた。
「こんばんは、あのー、空いてますか?」
「…………満室だが……お姉ちゃん達は旅の人かい?」
「はい。とっても困ってまして♡」
「…………いいよ、実は空いてる部屋はあるから……」
何と1軒目で宿をゲット! カワイイってお得だ!
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