第6話 街でのビジネス
やはり大事を成す人とは変人なのだろうか……アルカは、カイル爺改めサオリン改めイブ、と行動していて強くそう思う。桁外れの極大魔法に桁外れの強さ、それは分かる。トイレ小屋で平気に寝泊まりしたり、葉っぱの下着で堂々と市場を歩いたり……そして今は、
「イブ、いい加減にしてよ」
「だってさぁ、最高なんだもん!」
イブは自分の身体の隅々を触っている。そしてかなり興奮気味……これが死にかけ爺さんだと思うと、心の底から気持ち悪い。
「早く自分の身体に慣れてください! はっきり言います、気色悪いです」
「あ、そんな風に見えてた……気をつけます……」
イブは意外に素直な反応をしている。
「10日後には元の姿に戻るんですよね?」
「それは……3つの理由から却下だ。1つはバレてしまう、市場の銅像みた? 元の姿に戻ったらすぐ見つかるだろ。そして2つめは私がこの身体をイタく気に入ったこと、最高だな(笑)」
「だから自分の身体触るのやめてください!」
「ごめんごめん。そして最後の理由……これが最大の理由なんだが」
「なんですか?」
「元に戻るだけの魔力、恐らく10日後にも貯められない……あの時はグミのお陰で大量の魔力があったけど。魔力不足でまた変身魔法なんて使ったら…………爺さん姿のミイラが出来上がるだけよ(笑)」
「戻れない? 一生?」
「それはわからん。でも魔力が十分にある状態で変身魔法を使わないと確実にミイラだね、もちろん戻らなくてもそのうち死ぬ。どちらも変わらんが。身体が若くても魂は爺さん、そう長くはない」
アルカは現実を直視して悲しくなった。カイル爺から城を抜け出す話を聞いた時、心が踊った。お祖父様のように勇者様と旅ができると。しかし、その旅は死に場所を探す旅……考えると悲しい。
「…………」
「アルカ、何辛気臭い顔してんの! さあ、張り切って終活するわよ! 私ね、元気なうちにやりたい事が7つあるの」
「やりたい事? 7つ?」
「そうよ。でも1つは……今叶ったから(笑) あと6つやりたい事、これから叶える!」
どこまでも元気なご老人……アルカは悲しくなってた自分がアホらしくなってきた。
「では、そろそろ寝ましょ。やりたい事は明日からね」
「わかった……」
アルカは疲れていた。その日は2人でぐっすり眠ったのであった。
△△△△△△△△△△△△△△
「アルカ、私のやりたい事、1個目は普通に働いてみたい! 働いて賃金を得て、それで生活するの!」
翌朝、イブはアルカと宿屋の一階で豪勢な朝食を摂っていた。栄養そしてボリューム満点……しかし2人では到底食べられない量である。
「魔物討伐は除く、だったっけ?」
「そんな勇者のやりそうなことは却下! もっとこう、この見た目とか活かせるやつがいいかな」
「うーん、女性の仕事といえば、事務とかウエイトレスとかは?」
(そんなのやったら貧乏生活になるなぁ…………貧乏な若い女子がやることかぁ…………閃いたっ!)
「アルカ、良いのがあった! レンカノやろう!」
「なにそれ?」
「レンタル彼女だよ! オトコの人とデートしてお金貰うやつ! それなら私の女としての振る舞いなんかも特訓できるし! 何よりこの見た目が活かせる!」
「…………それ危なくない?」
そう聞いてイブは考えた。確かにこの世界では聞いたことがない。安全対策としては魔力を込めたお守りを作ればいい……うーん、どうにかなりそうだ!
「安全対策は契約違反した場合に発動するお守りを私が作ればいいけど……問題は集客だな」
イブは更に考え込んだ。店を構える訳にはいかない。秘密の恋人ということがバレてしまう。それに、オマワリによる摘発も怖い。例のオマワリにマークされてる可能性もある。
「私、逆ナンみたいなことはしないわよっ!」
「それだ! 私が営業してくる! そうね……そうなるとレンタル彼女というより、パパ活ね!」
アルカはキョトンとしている。きっとイブのナイスアイデアに感心しているのだろう。健全なパパ活、これなら容姿端麗な2人にはピッタリである。
「もしや…………私もやるの?」
「アルカがやっても心配ないって! エッチなこととかされそうになったら発動する自衛のお守り作ってあげるから!」
「イブ、そのお守り売ったほうが安全そうで良くない?」
「ダメ! 悪用されたら危ないじゃん。大事なところがチョン切れる仕様にしようと思ってるんだから(笑)」
アルカは軽蔑の眼差しであるが、イブは無視をする。そして、とっととお守り作りを始めた。
「まあそれが……イブのやりたい事の1つなら、付き合うよ」
お守りは1時間ほどで2つ完成させた。お守りの発動条件は2つ、1つはドライブレコーダーのように画像で状況を判断、もう1つは所持者の心に連動〜嫌悪や憎悪、拒否といった心境になったかどうかを判断、2つが重なると「チョン切る行為」に発展することになる。
「アルカ、まずお守りの所有者登録するわよ。そうすればピンチの時にお守りが助けてくれるわ。お守り発動条件は2つ、そういう状況になること、そしてアルカが嫌って思うこと」
「じゃあ嫌って思ってもそういう状況にならなければ発動しないの?」
「もちろん! 逆にエッチなことされそうな状況になってアルカが いいよー って気持ちなら……ピクリとも発動しない。だから安心だ!」
「何その 安心 って…………」
「人の恋路は邪魔しないってこと(笑) いい? じゃあ所有者登録するわよ 手を出して」
イブはアルカの手のひらにお守りを乗せて呪文を唱え始めた。お守りはみるみる手のひらから身体の中に取り込まれていった。
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