転生勇者のエピローグ

@aniki4649

第1話 危篤勇者

「勇者様のご容態が……」


「すぐに医師団を!」


 ミトルはすぐに医師団を呼んだ。


 異世界から召喚され、魔王を倒し、アルサリア王国を救った伝説の勇者様「カイル」。もう120歳というご高齢で明日をも知れぬ命である。元々カイル様の髪は黒かったが今は白髪、頬は少し痩(こ)けているが、その佇(たたず)まいは往年の勇者そのものだ、威厳がある。




 医師団は素早くカイル様の居所に入り治療を開始する。王国の医療技術は魔法での治療に加え、カイル様がもたらした科学的医療技術が加わり発達している。そして、その医療技術の髄を結集した治療をカイル様は受けている。



 少しすると医師団長のプラックが部屋から出てきた。


「ミトル様、どうにか処置は終わりました」


「プラック、ご苦労だった。で、カイル様の様子はどうだ……ある程度回復されるのか?」


「はい。当面は大丈夫でしょう。毎回のことですが……あとはカイル様次第、ということです。ミトル様、カイル様に会われますか?」



 ミトルはカイル様の部屋に入った。さすが最先端医療、危篤であったカイル様は目を開けてベッドに横になっている。


「カイル様、お加減は如何でしょうか?」


「良いわけ無かろ……あの治療法はどうにか改善できんのか……」


「カイル様、申し訳無けありません。常に最先端の医療技術を投入しておりまして……」


 カイル様はご機嫌が悪い。それもそうだ、最先端医療はかなりの痛みを伴う、そして投薬される薬剤は味覚を破壊するほどの味。


「私はもう長く生きすぎた。もうそろそろ死なせてくれんか……」


「そんな……カイル様はこの王国の勇者なのです! どうか、そんな悲しいこと言わないでください!」


 ミトルはカイル様を心の底から敬愛している。弱気になるカイル様を見ているのは辛かった。カイル様の手を取り熱く語るうちに涙が出てしまった。


「分かった分かった。いつも有難うな」



△△△△△△△△△△△△△△△△



 ミトルが部屋から出ていった。部屋には侍女のアルカだけがいる。アルカは16歳、短めの黒髪で目と胸かやたら大きい。カイルの侍女に抜擢されたのは、彼女が治癒魔法の天才と言われているからである。


「アルカよ、この薬、飲まなきゃ駄目か?」


「はい、ダメです!」


「では口写ししておくれ(笑)」


「クソジジイがっ! やるわけねーだろ、早く飲め!」


 アルカは2人きりの時には口が悪い。だが、それはカイルが誂(からか)うからでる。でもそれはカイルにとって新鮮で、まだ勇者として魔王討伐をしていた頃を思い出す。そう、アルカの祖父はカイルと共に魔王討伐をした伝説の魔法使いセフィロスである。


「アルカ、ジジイはいいが、クソはないだろ」


「そうね、言い直すわ、老いぼれジジイ!」


「間違いないな(笑)」


「なにそれ……伝説の勇者様が肯定しないでよ(笑)」


 2人は笑った。


 口は悪いが今は亡き仲間の孫、会話が出来るだけで楽しい。それにアルカは……エロい身体をしている。まあこの老いぼれには関係のないことであるが。


「老いぼれは間違いなかろ。ところで、今回はアルカが来てから何回目の危篤だ?」


「えーと、私が来てからは8回目かな」


「なら通算で58回目か。私はいつか死ねるんかなぁ」


「危篤になった時は本当に死にそうだけどね。医師団来なければイケるんじゃない。でもさ、カイル爺は危篤から回復すると何で元気になるの? 死にそうだったのにいつも回復するとエロジジイになる(笑)」


「それは秘密だ」


 危篤……の時は決まって同じ夢のようなものを見る。所謂(いわゆる)走馬灯であろう。初めて危篤になった20年前から何度も見ている。


 その内容は…………



 カイルは転生者。日本という国に生まれた、中学までは勉強一筋、憧れの名門高校に進学したがクラスメートは同性が殆ど。魅力的な同性の先輩や同級生に囲まれながら楽しい高校生活は過ごせたが、医療の道に進もうと決めてからはまた勉強三昧。特に異性との恋愛経験をすることなく過ごした。そして紆余曲折があり異世界へ召喚されることになった。


 召喚されてから取り組んだのはレベルアップ。これはキツかった。6歳の身体で転生して12年、毎日反吐が出る特別訓練。そして18歳になった時に勇者としてパーティーを組んだ。パーティーメンバーは5名、カイル以外の4名はマスターと呼ばれた壮年の男性、色気も何もない。そこから50年あまり、魔王討伐するまでほぼ毎日戦いの日々。休みは重症を負ったときのみだった。そして魔王ハデスを倒した。


 魔王ハデスを倒した後には、勇者としての日々が待っていた。スケジュールは分刻み、王国の重要会議から魔王討伐隊の遺族への慰問、他国への訪問もこなした。王国に労働基準法はもちろんない……勇者に休みはなかった。休む時は……重い病気にかかった時のみだった。こうして高齢になり、病に伏せることになった。



 この走馬灯をもう58回も観ている。最初の頃は栄光に満ちた人生を懐かしむ気持ちもあったが、今は違う。最後に思うことはいつも1つ。


(あー、こんな頑張ったのに何故遊べなかったんだ! デートしたり、友達と釣りやゲーセンに行ったり、趣味もない ふざけるな! こんなんじゃ死ねん! あー、もう一度人生楽しみてー!)


 この煩悩を思う度にカイルは蘇生する事を知っている。そして……蘇生してからいつも後悔をするのである。

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