第2話 魔脈の薬

「プラック様、研究の成果はどうですか?」


「リヨンか……今回は魔脈を繋いでみた。この方法でも蘇生は可能ってことが分かったよ。しかしまぁ、こんな研究が出来るのもカイル様のお陰だな(笑)」


「また勇者様を使って人体実験ですか? ミトル様に知られたら処刑されますよ」


「そうなったらオトコの本望だよ、命を懸けるに値する研究をしているって事だからな(笑)」


 プラック様は根っからの研究者。以前カイル様が施した外科手術というものを目の当たりにし、すっかり医学の虜になって今日に至っている。そして、今は人体実験をするのが生きがいである。


「そうそう、プラック様のご所望されていた、活きのいい遺体が手に入りました! 明日お屋敷にお運びします」


「リヨンよ、活きのいい遺体などなかろ……新鮮な、の間違いではないのか(笑) 色々蘇生術を試すとしよう! いつもすまんな」


 リヨンはこの王国の医療、いやプラック様の医療の研究の為に臨床研究用の「素材」を集めている。プラック様は「死を超越」する研究をしていて、その成果がカイル様の生存であった。



△△△△△△△△△△△△△△△



 今日は気分がいい。当分走馬灯を見なくて済みそうな体調である。プラックが何か特別な施術をしたに違いない。走馬灯から戻る不快感が当面来ない事を思うと嬉しいとさえ思う。


「カイル様、プラック様がおいでです」


 プラックはカイルが危篤になった翌日は必ず回診を行う。今回もお決まりのパターンだ。プラックはカイルの医学上の弟子ではあるが、プラックが嫌いである。理由は……見た目が不気味なのである。黒と白、斑になった髪、丸メガネ、白衣、そして信仰する死神教のペンダントを下げている。


「プラックか……」


「カイル様、ご加減はどうですか? だいぶご回復されたようですな」


「あぁ、いつもよりいい。お前、私に何をした?」


「カイル様には隠せませんな……実は途切れていた魔脈を繋いでみたのです」


 魔脈とは魔力の通る血管のようなものである。魔力は誰でも持っているモノではない。だが、魔力持ちの魔力は全身に巡っている〜魔力が枯渇してくると所々途切れてしまう。これを外科手術を手本に魔道具のメスで繋いでみたようだ。


「おい、プラック。私の身体で人体実験すな!」


「いいではないですか。回復したのですから(笑)」


 プラックは不気味に笑っている。引き笑い、もう付き合いは長いが……気持ち悪いヤツだ。


「お前の思いやりの欠片もないクソ不味い薬、どうにかならんか。不味くて死にそうになる!」


「カイル様、大丈夫ですよ。死にそうになったらお助けにあがりますので(笑)」


 ヤバい。こいつと話していると背筋が寒い。


「そうそう、カイル様。今度、こちらの薬をお飲みください。これは魔脈を繋げる効果があります。もしかしたら若返りますよ〜(笑)」


 カイルは知っている。プラックが自分の身体で人体実験をしていることを……。でも危篤を58回も救ってくれた恩は……ある。まあ好きにさせよう。




 プラックが帰った後、いつものように部屋の外にあるバルコニーを歩く。そよ風が心地よい。ここは王都の高台に聳(そび)え立つケルン城、眼下には100万都市が広がる〜城の一部である西の館、通称勇者の館と呼ばれる場所は風通しが良い〜白い雲からの木漏れ日が気持ち良い。


「カイル爺、そろそろお昼よ。用意しておくから勝手に食べてね」


「おー、悪いなアルカ」


「薬も置いとくから忘れないで。私、稽古に行ってくるから」


 アルカは侍女であるが基本的には自由にさせている。元勇者パーティー、要するに勇者一行の末裔であるので多少ワガママに育っているのは仕方がない。


 部屋に戻ると軽食が置いてある。薬は……プラックが持ってきた魔脈を繋げる効果のあるという例のもの、見た目は小さなグミのようだ。



 カイルは素早く軽食を済ませる。そしてグミ状の薬を手に取った。


(これ、食えそうだな。美味そうだ)


 カイルは飲み込まず食べてみた。うん、旨い!


(プラックめ、いつも薬が不味いと言われるからって気を利かせてお菓子を持ってきたな。良いところもあるじゃないか!)


 カイルはプラックが持ってきたグミを全て平らげてしまった。



△△△△△△△△△△△△△



「なにっ! 臨床試験で死者がでたと! すぐにカイル様にお知らせしないと」


 なんとプラックが作った魔脈結合薬を処方した患者に死者が出た。カイル様には今朝お渡ししたばかり、プラックは焦った。とりあえず、この時間、稽古場で鍛錬している侍女のアルカを呼んだ。




「アルカ、カイル様に薬は飲ませたのか……」


「あ、はい。飲んだと思います。1日1錠でしたよね?」


「そうか……まずい事が起きた。あの薬を直ぐに回収してくれないか。カイル様には気づかれずに」


「分かりました」


 今、プラックがカイル様の部屋に行くことは控えたい、ミトル様は勘が良い、騒ぎ立てて知られれば大事になる。カイル様は勇者、恐らく1錠程度飲んでもカイル様の身に危険はあるまい。そっとアルカに回収させて代わりの薬を渡せば万事解決するはずである。




 数時間後、アルカが戻ってきた。手には薬を入れていた袋を持っている。プラックはホッとした。


「プラック様、あまりご冗談は仰らないでください(笑) カイル様はお見通しでしたよ! プラック様から貰ったお菓子は全部食べちゃったみたいです(笑)」


 その言葉に……プラックは絶句した。アルカはニコニコしている。もしも、伝説の勇者がこの薬によってこの世を去ることがあれば……プラック自身も、ニコニコしているアルカも……良くて死刑である。

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