第15話 魔王の子
「ダフネ校長、マーリ教官、そろそろ始めて宜しいでしょうか?」
「で、どうするのだ。一人ずつ感覚を開けながら治療をしていくのか?」
「いや、二人ずつやります。シルビアさんは少し時間が
かかるので最後に治療します」
いよいよ治療の日が来た。校長の応接室にダフネ校長とマーリ教官が揃っているので、シルビア以外のクラスメートの足は竦(すく)んでいる。校長も教官も生徒からは恐れられているのだ。
「では、そのように進めてくれ」
「えーと、ここで1つ皆さんに残念なお知らせです。皆さんの失った部分は戻りますが、超美人や巨乳にはなりません! 以前の状態が戻るか、成長した形で再生します。ブスはブスのまま、可愛くなりたい方はメイクを頑張ってください。巨乳になりたい方は……パットを入れてください(笑)」
少し場が和んだ。校長も教官も笑っている。雰囲気づくりはこれで完了、いよいよ再生魔法を施す、
「ではサヤカとクマコから ここに座ってください」
2人を座らせた。そして背後から手をかざす……イブは集中する、そして2人の記憶を辿っていく。欠損部分が存在した記憶まて辿ると、それをイメージで固定化。そこからは魔法の深淵と呼ばれる場所まで意識を飛ばす。
イメージが具現化するまで目は開けられない。自ら音も遮断する。そして数分後……具現化が終わり目を開ける、と同時に周囲の音が耳に入る。
「なんか、髪の毛生えてる……」
「クマコってかわいいい……」
様々な声が聞こえる。だが、ここでみんなと感情を共有しては魔法の深淵まで意識を飛ばすのに時間がかかる。次の2人を座らせる〜同じ手順を2回繰り返した。
「ではシルビア……」
あと一人、シルビアの角の再生である。人にはない角を具現化するのは至難の業である。改めて深く深呼吸をして取り掛かる…………
どれくらいの時間が経過したのであろう。再生は困難を極めた。そしてついに……イブは目を開けた。
「これで全員終わった……」
イブは眼の前が真っ暗にな倒れてしまった。
次にイブが目覚めたのはベッドの上であった。
(ちょっと無理をし過ぎたか……こりゃ余命もかなり減ったな…………)
イブの横には見知らぬ少女がいる……ショートカットで赤みが掛かった天然パーマの髪の毛、目がくりっとしていて、あどけない表情…………誰?
「イブ! 良かったよ〜 死んじゃうかと思った……」
声に聞き覚えがある……ミコトの声をしている。
「ミコト…………なの?」
「うん、そう。治してくれて本当有難う」
ミコトはホッとしたのか、その場で泣き崩れてしまった。イブはミコトの髪の毛に手を触れた。
イブか目を醒ました事を聞きつけ、治療を受けた少女が順番にお見舞いに来た。クマコとサヤカは劇的に見た目が変化していた。2人とも16歳少女のあるべき姿をしている。リッカ、ルル、メルも欠損部分が再生したことで、明るい表情になっている。
そして最後にお見舞いに来たのがシルビアであった。
「イブ、ありがとう 私、自身の尊厳を取り戻した気がする」
「私も嬉しい! シルビア、笑うとかわいいわね(笑)」
「恥ずかしい……なこと言うなっ」
シルビアは照れている。これで仲良くなれそうである。
「イブ、再生した角、触ってみて欲しい」
これにはイブも驚いた。魔族にとって角を触らせる、という行為は絶対服従を意味している。初めて話しかけたときはワザと角を触ろうとしたが……それはシルビアが魔王の変身ではない事を確認する為であった。
そう、勇者カイルは魔王を殺していない。これは勇者と魔王しか知らない事である。そして、別れ際にカイルは魔王の服従の礼を受けた。もし、シルビアが魔王であればイブがカイルだと気づくはずだし、仮に知らん顔をしていても服従の礼を受けた相手の行為を妨げる事はしない〜角は触らせてくれるはずだ。
「分かった。でもいいの?」
「はい」
イブはシルビアの角に触れる。そして魔王と同じ言葉を口にする。
「孤高にして偉大な魔の者よ、正しい道を歩め、そして多くの祝福を!」
イブはシルビアに、魔王ハデスと服従の礼儀をしたときと同様の言葉を与えた。シルビアがこの言葉の意味を知っているかどうか、は問題ではない。これからのシルビアへの言葉であるから……。
△△△△△△△△△△△△△△
イブからお言葉を戴いている。不思議な気持ち……ふとママの事を思い出した。何故か過去が蘇る。
ママは人間であった。パパは魔族で名前をハデスといったそうだ〜シルビアを身籠って直ぐに人によって殺されてしまったとママから聞いていた。ママは優しかった、なのでシルビアも人を恨むようなことはなかったのだが……。
シルビアはママと人目を忍んで森の奥深くで生活していた。だがある日、パパを害した黒魔魔道士の軍団がやってきた……その魔道士軍団は人間のママをまるで虫けらのように惨殺した。
「おい、こっちにもちっこいのがいるぞ。コイツ、魔族だ」
「まだ小さいけど油断するなよ。全力で…………」
「まて! 何をやっている! 殺すなという勇者様の伝達に背くのかっ!」
白い魔導服を来た女性にシルビアは救われた。その女性はシルビアに優しく接してくれて、その女性の提案でここ、サンドラにやってきた。女性の名前はマーリといった。
シルビアは過去の記憶から戻り目を開けた。
「…………イブ様…………」
「ん? なんだよいいよ、イブで。友達だろ(笑)」
イブは優しい目でシルビアを見つめていた。
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