第11話 女子少年院

 神父に挨拶を済ませたあと、イブは居住エリアに連れて行かれた。高く築かれた壁の中、門に入ってやっと枷を外してもらえた。


 居住施設は個室になっているようだ。しかし汚い……まるで独房のよう。やはり……宗教の施設なのか……


「暫くしたら教官がくる。それまでここで待機してろ」


(とりあえず、様子を見よう)


 イブは何も言わずに居住施設で待つことにした。



△△△△△△△△△△△△△△△



「ダフネ様、新入りを独居房に入れておきました。あとはよろしくお願いします」


「で? その娘の罪状は?」


「特にありません。ただ名が二文字で、イブ、と言うそうです 男を誑(たぶらか)す仕事の元締めをやっていたようですが、ハンスに目をつけられまして。ニール様から……死ぬよりマシってことでこちらにお連れするよう申し付けられました」


「そう一般貧民ね……ここで生き残れるかしら(笑)」


 ダフネはこの施設の責任者になって18年になる。学生は500名を超えるが、18年でここを出たものはいない。しかし死者は山のように出している。


「ハンスね、アイツまだ正義を振りかざしてるの? あんなクズが元彼って、私の一生の汚点よ(笑)」


「で、新入りはどのクラスに入れるのですか?」


「凶悪犯でないならマーリのクラスでいいでしょ。マーリを呼んでくれない?」


「分かりました」




 ダフネはマーリが来る間にイブについての資料に目を通した。人族、出身地不明、年齢16歳、戦闘力・魔力共不明だが恐らく無し、サンド南部で接触行為のないデートクラブを運営、他の仲間は3名(現在逃走中)、罪状なし。犯罪者予備軍として逮捕。


(この子ツイてないわね……でもここでは弱い者は生き残れる可能性も高い、それでニールもこちらに寄越したのだろう)



「ダフネ様、お呼びですか?」


 マーリが部屋に入ってきた。相変わらず天使のような笑顔〜燃えるような赤い髪、長身でスタイルが良く、黒いメガネをかけている。


「マーリか。新入りをお前に預ける。今から面談してこい」


「私のクラスってことは、相当の犯罪者なのですか?」


 マーリの目がギラギラしてくる。


「いや、逆だよ。多分弱い奴、罪状はなし。ここで生きていけるくらいの戦闘力をつけておいてくれないか」


 それを聞いてマーリはガックリと肩を落とした。


「分かりました。行ってまいります」


 やる気のない顔でその場を去る、分かりやすい奴だ……。



△△△△△△△△△△△△△△△



 イブは暇である。結構待っているが誰も来ない。昨日半殺しにされた時に付けられた傷を少しずつ治している。魔力で傷を治すのは……痛痒い感じである。


 ノックがした。


「おい、入るぞ」


「はい」


 入ってきたのは背が高く赤い髪の女性、数百年前に絶滅したファイヤーマンの血が流れているのだろう。


「お前が新入りか……随分ちいせえなぁ」


「イブと言います。教官でしょうか? 本日からよろしくお願いします」


「お、礼儀知らずではなさそうだな。よろしくイブ。私はマーリだ」


「マーリ教官、1つお聞きしたいことがあるのですかお許し頂けますか?」


 マーリにそう話しかけると、マーリは少したじろいだ。話し方がまずかったのか……


「いいだろ、言ってみろ」


「ここは……どこかの宗教団体の施設なのでしょうか? 塀は高いですし……私、何も聞かされずにここに連れてこられまして……」


「そうか。お前、可哀想な奴だな(笑) ここは更生施設だよ、若い少女の……殺人鬼や放火魔、凶悪犯も多く在籍してる」


 そんな事だとは思ったが……要は女子の刑務所、比較的若い者を集めた、所謂(いわゆる)女子少年院。


「普通の生徒さんはいないのですか?」


「いないことはない。政治犯や凶悪犯罪者の娘、犯罪予備軍として収容された者もなども居るが……私のクラスは凶悪犯が多い(笑)」


「クラスメートは同年代ですか? 私、とっても恐ろしく思えてきました……」


 嘘である。女子少年院ってことは何十年もムショ暮らしのオバサンばかりかもしれない。それならとっとと脱獄をしよう…………と思って年齢を確認しただけだ。


「安心しろ、お前より少し上が大半かな。だが、ここは更生施設であって仲良し仲間を作る学校とは違う。それは理解してほしい」


「分かりました。しかし、何も犯罪犯してないのに、何を更生したらいいのでしょう」


「口答えするな!」


 マーリ教官は大声で威嚇した。イブは驚くふりをした。


(まあいい、クラスメートが若ければ眺めているだけで楽しいはずた)


「大変失礼しました。以降気をつけます」


 更生授業は明日から参加することになった。

 

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