第10話 助け舟

「なるほど、そう云うことか」


 牢獄に連行されたイブはニールから聴取を受けている。ニールはハンスのことを色々教えてくれた。元魔王討伐隊に所属していたこと、正義感が強く街の浄化には目の色を変えて取り組んでいること、そして勇者カイルの熱狂的信奉者であることも。


「ニールさん、私、どうなっちゃうんでしょう……」


「そうだよな。心配だよな」


 ニールは考え込んでいる。そして口を開いた。


「警部が聴取に来ると撲殺しかねない。その前に何とかしたいが…………とうだろ。その、どりーみん、って組織の解散を文書で残してくれないだろうか」


「書けば痛い思いしなくて済むのですか」


「警部が来る前に処理したい。そしてもう一つ提案、イブくん、教会にある女学校に行かないか」


「女学校?」


「あそこなら警部が乗り込んで来ることもあるまい。少しの間、身を隠していた方がいいよ」


 女学校……その響きは甘美である。オンナばかりの学校ということ。イブのやりたい事、偽リストでは2番目に「もう一度学校に行く」というものがあるが、それが実現できる。ニールは……救世主だ!


「お願いです。助けてくださいっ!」


「よし、ではそれで早速手続きしよう」


 イブは堪えきれない喜びをひた隠して、どりーみん解散の書類にサインをした。



△△△△△△△△△△△△△△



 アルカは委細をマルンから聞いた。イブが連行されたと、それも瀕死の状態で。だが冷静に考えれば、盗賊を不能にした強さを考慮すれば、命を落とすことはない、と判断できる。


「で、アルカ。私達どうすればいいの? イブみたいに捕まっちゃう?」


「カナタ、マルン、よく聞いて。実は非常事態を想定してイブが残してくれた手紙があるの。とりあえずこれに従ってみない?」


 2人に手紙を見せる。


 その手紙にはこう書いてある。イブにもしものことがあった場合、この街サンドを出ること。隣町のノールダムに住処とイブの資金があり、それで生活してほしい旨。そして3年が過ぎてもイブが戻らなかった場合、イブを待たずに資金を分配してそれぞれの思う道に進んでほしい…………と。


「アルカ、それは分かったけど……どうやって安全にノールダムまで移動するの? あのイカレ野郎に捕まったら私達もおしまいよ……」


「マルン、そこは心配しないで。ノールダムの街外れに転移陣があるから……」


「転移って……そんな高等魔法…………」


「私、実はそれくらい使えるの……セフィロスの末裔だから(笑)」


 アルカは2人に自身の素性だけ明かした。イブが勇者カイルという話は……荒唐無稽すぎて信じられないだろうと判断し2人には話さなかった。


 この王国には姓はない。存在しない訳では無く、王国に生まれたものは等しく「ハートランド」という姓が与えられる。この国の国名、そして王都の名前である。そして名は殆どのものが3文字を使用する。長い名前は位の高い人が付けるが、アルカの祖父は英雄パーティの一人、セフィロスという5文字を国王から賜っている。ちなみに2文字は貧民や一部の賢者が好んで付ける。


「アルカって……お姫様だったんだ…………」


「今はみんなと同じ! とっととノールダムに向かいましょ(笑)」


 アルカは魔法陣を書いた。そしてノールダムへと3人で移動をした。



△△△△△△△△△△△△△△△



(全寮制の女学校……生着替えにお風呂タイム、あぁ、思うだけでどこか遠くに召されそうだ……)


 イブの妄想は膨らむ。昨日、書類にサインしたが早速本日学校に向かうという。手持ちの資金がないのが気になるが、職住はタダで嗜好品や娯楽にはお金がかかるらしいが、どうにかなるだろう。


「ニールさん、本当にありがとうございます。出発の準備が整いました」


「イブくん、これは私の職務でもあるんだから気にしないでくれ。別に大きな情けをかけている訳では無いしない(笑)」


 イブは首をかしげた。ニールは実は女学校の影の理事長で、恵まれない子供達の保護活動でもしているのであろうか。イブは貨物船に乗せられた、学校に必要物資を運ぶという……その船に便乗して乗せてもらうことに。ニールは忙しいらしく、同行しないようである。何故かイブの手にはめられた枷は外されることがなかった。



 勇者の街サンドには一本の川が流れている。それを下ると海に出る。女学校は海にある小さな島にあるらしい。同じ島に男子専門の学校もあるらしいが、年に一度の合同競技会の時にしか交流が持てないそうだ。


「おいオンナ、そろそろ着くぞ。支度しろ!」


「へいへい」


 貨物運搬係のオッサンの態度が悪い。だがここは我慢〜天国に連れて行ってくれる案内人なので大人しく従うことにした。



 島のある港から数キロ歩いたところに教会がある。そしてその教会の裏手に女学校があるという。まず教会の神父様の所にイブは連れて行かれた。


「おー、君かね。ニールから話は聞いている。これからよろしく 名前は確か……」


「イブと申します」


「二文字の名か……可哀想に。ここでは二文字のものでも司祭や修道女になることが許されている。いい子に暮らすんじゃぞ」


 イブは思った……ここ、新手の新興宗教の施設かも……と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る