第12話 クラスメート

 正式名称「サンドラプリズン女子更生学校 中等部」


 イブがこれから通う学校の名前である。サンドラとはサンド島という意味、ここは勇者の街サンドの管轄下にある島である。


「ではイブさん、今日からですね。教室に行きましょう」


「はい、教官」


 胸が踊る。すれ違う女子は概ね可愛らしい。凶悪犯よりも政治犯や凶悪犯罪者の子供が多いせいだろう。イブが身の危険を感じるような生徒はいない。


「教室に入ってもビックリするなよ。私が受け持つクラスはこの校内でも特別級だからな」


「はい、教官」



 教官は教室に着くとイブを伴って扉を開いた。その光景は……


 絶句、の一言。クマのようにデカいやつ、顔の半分が火傷で爛(ただ)れているやつ、片目が潰れていて空洞になってるやつ……ざっと見渡すと生徒は25名、ヤバそうな人物7名。ひときわ異彩を放っているのは、角の生えた奴〜強力な何かを感じる。


 この瞬間で、イブの甘い女学校生活の夢が瓦解した。


「おい、貴様ら。今日からの新入生だ」


 全員の視線がイブに集まる〜凄い殺気と憎悪、この前成敗した盗賊共と同じくらいの人数だが迫力が違う。


「あの〜。イブと申します。皆さんよろしくお願いします」


 挨拶をすると先程まであった殺気と憎悪がすっと引いた。興味を失ったようにも見える。


「イブの席は窓際の後ろだ、席に付け。いいか仲良くしてやれよ」


「はぁ~い」


「では授業を始める」


 イブは席に付いた。その席は……ヤバい奴らに囲まれた席であった。マジマジ見るとみな恐ろしい、が、欠けた部分を補えば……案外普通に見えるやもしれない。



 最初に受けた授業は英雄史、英雄の歴史である。もちろん勇者カイルも解説されているが、ちょうど勇者パーティのセフィロスが授業の題材になっている。イブはふとアルカを思い出した。



「おい、お前。このクラスに来るってどんな犯罪犯したんだ?」


 休み時間になり最初に話しかけてきたのは、顔がケロイド状になった細身の女性? であった。魔物の方が可愛く見えるくらいの容姿である。


「あ、いやー。特に罪状はないみたい」


「…………言いたくないんだな(笑) 私は火が好きでさ、村を1つ焼いちまった事があって……あ、これはその時の勲章みたいなものだよ。カッケーだろ!」


「お前、本当に無罪でここに来たのか? 俺と一緒だな」


 次に話しかけてきたのはクマのような少女、いや、メスのクマの魔物と言った方が妥当か。


「はぁ、お前は存在が罪なんだよ(笑)」


 ケロイドとクマが普通にお喋りをしている。不思議な光景だ。このクマ……何かの魔法の呪いがかかっている〜それもかなり複雑で突拍子もないものが……。


「私はミコト、こいつはクマコ。よろしくな」


「クマコさん……アナタその容姿って呪いよね? それもとっても複雑っていうか……」


「え! 分かるの? アナタ魔法とかも使えるんだ! でも……なんで名前が二文字なの?」


 周囲はイブが魔法が使えるという事に驚いている。同時に刺さるような視線を感じた〜角の生えた少女だろう。


「うーん、生まれ変わりたかったから、かな。私の故郷では最初の人類をイブって呼ぶの♡」


「ふーん…………イブすごーい!」


 魔法が使えると聞いて人だかりが出来てきた。片目が潰れているサヤカ、茶髪で可愛らしい顔立ちであるが指が両手合わせて指が4本しかないリッカ。黒髪で日本人形のような容姿をしているルルとメル(恐らく双子)〜はそれぞれ片耳がなく、足も不自由のようだ。しかし角の少女は相変わらず刺すような視線を送ってくるのみである。


「ね、イブ。1つ聞いていい? 私達みて怖くないの? ここに居るやつは凶悪犯だったりするし、拷問されたり虐められたり、五体不満足の子も多いけど」


「まあサヤカが恐怖の顔面NO1よね(笑)」


「は? ケロイド顔に言われたくない(笑)」


 容姿はヤバいが中身は普通の少女のようである。


「一年くらい前に入ってきた新入生は自己紹介のときにお漏らししててさ(笑)」


「ある意味ソソるよね(笑) 出来れば迸(ほとばし)るくらい豪快にしてほしかった(笑)」


 全員が一斉に笑っている。恐らくコイツラ……バカだ。勇者パーティにも王国の魔王討伐騎士も生真面目な奴らが多くつまらなかったが、ここは楽しい!


「怖い? ナイナイ! でもみんなが喜んでくれるならお漏らしくらいしてもいいぞ(笑)」


(笑) (笑) (笑) (笑) (笑)


 刺すような視線が和らいだ気がした。恐らくこのクラスで1番強力な力を持っている角の少女〜少し様子を見てからコミュニケーションを取ることにしよう。



 授業中も休み時間もイブは教室の外から強い視線を感じ取っていた。悪意はないが、注意深く監視をしている視線である。恐らくダフネさんだろう。


 こうしてイブのスクールライフは始まった。 

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