第13話 ある提案

 イブは積極的に同級生と話をした。ミコトは幼い頃両親が殺されストリートチルドレンとして育ったそうだ。花火が好きで自作の300本のロケット花火を飛ばしたところ、魔力をエネルギーに変える小さなコンビナートに引火して街が本当に吹っ飛んでしまったという。


 クマコもやはり両親がいなかった、が、魔法が使えた。魔法を色々試しているウチに人の形を変える魔法の魔法陣を完成させた。しかし未完であったため、魔法陣を作り替えている時に魔法が暴走し容姿を変貌させてしまったようだ。


 施設で育っていたサヤカはイジメにより片目を潰された。報復としてイジメた施設の職員3人を殺している。リッカはギャングの女ボスであったが、殺人依頼が嫌で組織を抜けた。その時にケジメとして指を落とされたそうだ。ルルとメルは幼い頃から娼館にいた。2人同時の初めての座敷上がりの時に、抵抗して客を刺殺してしまう〜店主は2人の耳と足を切り落とし、森に捨てた〜そこを保護されたようた。


「みんな凄い悲しい人生なのね…………」


 1週間くらいが経過したある放課後、ミコトの部屋で過去の暴露大会をしていた。彼女達の罪は……不幸と無知である。


「でもさ、ここ、案外楽しいし。私達見た目怖いからさ、イジメられることもないし」


「でも完全無視ってか……恐れられてるよね(笑)」


「みんないいヤツで良かったよ! ところでさ、あの角のある子って何者? やたら私の事見てくるんだけど」


「イブ、あの子には近づかない方がいいよ。角あるでしょ……噂だと父親が魔族らしいよ」


「一度ね、教室で暴れて大変だったの 懲罰房に連れて行かれたんだけど、拷問受ける前に教官を何人かヤッたって噂もあるし」


 角の少女、イブはもしや……とは思っていたが。魔王の筋なのは分かる。魔王も容姿を変える極大魔法が使えるので、魔王本人って事も考えられる。魔王本人なのかどうか、はイブが直接話しかけて確認する必要がありそうである。


「じゃあ明日、懲罰房の話を私聞いてみるよ♡」


「シルビアは甘いもの好きだから、話しかけるなら何か差し入れ持っていった方がいいよ」


 よし、明日直撃だ!



△△△△△△△△△△△△△△△



 マーリはダフネ様に呼ばれた。恐らくイブについて、であろう。恐らくダフネ様はイブの何かに気づいている、だが、それが何かはマーリには分からない。


「ダフネ様、お呼びでしょうか?」


「マーリか。まあそこに座れ」


 予め用意しておいたのだろう、紅茶の香りがする。


「ブレックファーストですね……夜なのに(笑)」


「このクセのない紅茶が好きなのだ。知ってるか? この紅茶という嗜好品は勇者カイルがこの国にもたらした物なんだ」


「初耳です」

 

 今日はダフネ様の機嫌がすこぶる良い。マーリの目の前に紅茶が運ばれた。


「で、あのイブはどうだ?」


「はい。初日にもご報告した通り、見た目に惑わされる事なく、クラスメートに溶け込んでいるようです。それと魔法がかなり使えるそうです」


「そうか。誰かイブの魔法を見たものはいるか?」


「いえ、おりません。でも魔法が使える旨は本人からも申告がありました」


 報告の途中でも優雅に紅茶を飲むダフネ様。どこか納得した様子である。


「ならここに呼んで魔法を披露でもしてもらおう(笑)」


「その事なんですが……実はイブ本人からある提案をされまして」


「なんだ」


「イブは治癒魔法が得意だそうで〜クラスメートの身体再生をしたいと提案されてます」


 イブからの提案には仰天した。魔法での治癒行為は本来病気を治したり、怪我も傷を癒やすくらいしか出来ない。欠損部分の再生は再生魔法と呼ばれていて、国内でも数名の高名な医師しか使う事が出来ない……はず。


「なるほど、いいじゃないか。やらせてみよう。治癒魔法は失敗すると命の危険があるが、再生魔法ならその心配もない 面白そうだ(笑)」


「分かりました。ではイブにそう伝えます。来週あたりに再生魔法の治療が出来るようにスケジュール調整します」


「そうそう、シルビアとはどうだ。戦闘とかにはならなかったか?」


「シルビアは相変わらずです。誰とも話さずに静かに過ごしています。なのでイブと話してる場面も今のところ目撃されていません」


「そうか…………」



 マーリは報告を終え紅茶を頂いた後、イブの独房に向かった。もちろんクラスメートの身体再生の許可が下りたことを伝えに。独房はここからそう遠くない。




「イブ、いるか?」


「はい。あ、教官 どうぞ……」


「いや、立ち話でいい。身体再生の魔法、許可が下りたことを伝えに来ただけだ スケジュールは私が調整しておいてやる。該当者にはお前から伝えておくように」


「はいっ! 分かりました。本当にありがとうございます!」


 イブの顔がパッと明るくなった。身体の再生……成功すれば良いのだが……あとは任せてみようとマーリは思った。

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