第26話 プリズン会議

 対抗戦から数日が経過した。イブは勇者カイルの血縁と宣言してしまった為、プリズン内の貴賓室に居を移された。


「イブ様、ダフネ様がおいでです」


 貴賓室にいるのは王城にいるのと変わらない。軽い軟禁状態であるが来客は多い。ちなみにシルビアは従者として付き添っている。


「イブ リッカが歩けるまで回復した。イブに会いたがっているが……」


「ではお願いします」


 イブはここにいる間、教官と生徒の関係を守るように厳命した。ここではイブは生徒であるから、校長や教官からは呼び捨てにされる。王国は階級社会、勇者の血縁という地位は国王を凌ぐ権勢を誇る。


「ところで、イブ。これからどうする………」


「あ、それね。シルビアを連れてここを出ます。サンドにも居られない。カルナ共和国にでも行きます」


 カルナ共和国は王国と友好的な関係にある。比較的魔王軍の侵攻被害が少なかった国なので勇者に対する熱い信奉もなくシルビアを鍛えるにはいい場所である。強い魔獣や魔物も多く平地の少ない地形、気候も温暖でイブの終焉の場所としても最高の場所だ。


「では、共和国まで馬車の手配を……」


「いや、大丈夫です。修行がてら歩いていきます。途中仲間のところにも立ち寄らないとならないので」


「そうか。あと明日の会議の件だがイブも出席でよろしいか? プラック様もご出席の予定だ。その時は臣下の礼で良いのか確認しておきたい」


 さすが階級社会、今は生徒と教官なので威厳ある態度で接しているが、会議に出席するイブにはひれ伏してもいいかと聞いている。


「そうですね。そうしましょう」


 こうして2つの事が決まった。ここを旅立つのは5日後、そしてプリズン会議と呼ばれる男子校女子校合同の総会に出席、イブは最上位の賓客として会議に望むことが……。




「イブ! 会いたかったー」


「リッカ……もう大丈夫なの?」


「うん。なんか不味い薬たくさん飲まされたり、クソ痛い魔法とか浴びせられたりしたけど。リヨン様って素敵なドクターに治してもらったの(笑)」


 イプは笑いを堪えた。リヨンが素敵な……か。本人が聞いたらどう思うのだろうか。趣味が検死という闇属性のキャラなのに……。


「へー! 一目惚れとかしちゃった?」


「もう…………イブったら」


 ……聞かなければ良かった…………。


 リッカの表情は明るい。死線を越えたからか、グッと女っぽくなった気がした。


「リッカ、今回ね、私プリズン会議に出るんだけど。そこで例のフィルの判決を話し合うの、リッカはどうしたい?」


「うーん、別にどうでもいいっ! 私生きてるし(笑) もしこのままだとどうなっちゃうの?」


「成人の年齢に到達したら処刑だな……リッカ、アナタが助かったのは本当に偶然なの。その……素敵なドクター? が側に居なければ。だからこれは殺人罪が適用される」


「そうなんだ……私がどうしたいか、うーん。そうなると寝覚めが悪くなるわね」


「分かった。それがリッカの意向ね! リッカって優しいね、いいオンナになるわ!」


「てへ♡」



△△△△△△△△△△△△△△



 そして翌日。プリズン会議の日、イブは早めに会場入りをした。楕円形のテーブルがあり教官か次々と座っていく。しかし、イブの席はテーブルにはなく一番奥の玉座の様な椅子に座らされた。玉座のような椅子は大小2脚ある、大きい方の椅子に腰掛けた。もう一つはプラックの席? なのだろう。


「イブ様、昨日は失礼致しました」


 ダフネ校長が挨拶にきた。その振る舞い……ひれ伏すなんて態度は微塵もない〜実に堂々としていてエレガントで美しい、言葉尻1つ取っても完璧である。


「あ、はい」


 そんなやり取りをしていた時であった。貴賓の扉が開いた……………………あ。


「皆のもの、ミトル大公様がお見えになられた。臣下の礼を!」


 ミトルはニコニコと臣下の礼を取った教官達に挨拶をして回っている。イブは……戦々恐々としている。そして、小さな方の玉座椅子へやってきた。


「お初にお目にかかります カイル様の隠し子、イブ様。長年気付きませんでした。お許し下さい」


 ミトルは……猛烈に怒っている。怒りのあまり魔力がダダ漏れになっていて、周囲の教官はたじろいでいる。


「ミトルよ 許そう。その代わり私のことも許せ、今までの事、私も反省している」


 ミトルは大きなため息をついた。そしてイブに対して臣下の礼をして席についた。



 会議が始まると激論が交わされた。対抗戦に変わるものの開催の件、フィルの処分、そしてプリズンそのものの在り方。どれも結論が出ない。ミトルも意見をしているが、やはり現場の意向も無視することが出来ず押し切れずにいる。


 イブは立ち上がり、議論を遮った。


「静かに! みな十分に議論したな。では勇者カイルの名において勅命を下す!」


「それぞれの言い分は分かった。まず対抗戦に変わるものは〜各校持ち回りでバザーはどうか。各校で作り上げた作品を販売したり、食事を振る舞ったり、それを1年交替で各校か担当する 意義は!」


 イブはカイルの威厳を持って話している。反論など誰も出来ない……。


「フィルに関しては、被害者であるリッカの意向を考慮して禁固3年とする。フィルに関しては以上」


「ついでに私から今後のプリズンについて提案だ……卒業制度作れ。刑期を終えたもの以外でも学校の模範になった生徒には自由を与えるようにせよ」


「そして最後に……コロシアムは取り壊して、男子校と女子校の交流会館を建設せよ。間違っても子づくり会館にはならないよう、厳重に管理せよ」


「イブ様、そのような交流会館、必要なのでしょうか?」


「この島に新たな学校を作る。それも男女共学のな。身寄りのない子やスラムの子に学びの機会を与えたい。そして各校の品行方正なものには編入も許可する。男女分けてしまっては確執も生まれるだろう、なので交流のための施設が必要だ」


「分かりました」


「ではバザーの内容や交流会館の建設は各校校長が話し合い進めてくれ 以上だ。反対意見は認めぬ!」


 イブは勇者カイル風の威厳を漂わせて会議を無理やり終わらせた。 

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