第27話 ある意味卒業
無駄な会議を終わらせて貴賓室に戻ったイブは覚悟を決めていた。これからミトルとのバトルになるだろう。
「イブ様、ミトル様という方がお越しです」
「通せ」
もう来たか……ストーカーめ。部屋に入ってきたミトルは臣下の礼を取る。
「カイル様におかれましては、ご健勝でなりよりです」
な、な、な、ミトルは泣いている。あの気高い大公、現国王の兄なのだが……イブは心から申し訳無いと感じた。
「許せミトル。身体が動くようになったので、冒険がしたくなったのだ」
「私も…………年を取りましたな」
ミトルは落ち着きを取り戻し椅子に座った。そして話を続ける。
「先程会議場では失礼致しました。こんなに心配していたのに、あろう事か女子校に潜入して禁断の時を過ごしていた事に猛烈に腹立てました」
どこか誤解があるようだが………
「しかし、先程の会議での振る舞い、あれはまさにカイル様のお裁き。ご無事であった事を思うと……感情が抑えきれませんでした」
「いや、私が悪かった。勇者に転生して120年あまり、一度でいいから庶民のように暮らしてみたかったのだ。もちろん飽きれば城に戻る予定だった。ミトルがいるからの(笑)」
「では今宵な大いに語らいましょう!」
ミトルは今日のために1日のスケジュールを全てキャンセルしたようだ。とことん付き合うしかない…………そろそろ夕食の時間だが、ミトルとの話は長くなることが多い。膳を貴賓室に運んでもらった。
「カイル様……でどんな悪さしたんですか? その容姿で良からぬことしたに決まってますっ、白状してください!」
「だからミトル、何もしてないって。さっきも話したろ〜一度だけ対抗戦メンバーと温泉に入ったくらいだ」
ミトルは普段は礼節を重んじる紳士なのだが……酒癖が悪い。そして下品な男に変身する。
「カイル様はそんなタマじゃないでしょ。きっとあんなことやこんなことを……あ、もしかしたら、自分の身体で試したとか…………さあ白状なさい!」
「何を言う、イブは生娘じゃ。聖女の如く清い、なシルビア」
「…………はい」
シルビアは完全に引いている。それは仕方ない、爺さん達の下品な話に入れるほど人生経験は積んでいないのだ。
「シルビアもカイル様に色々やられたんじゃないのか? カイル様は昔、女の敵という二つ名もあったんだ(笑)」
「おいおい、ミトル、それはお前だろ!」
「そうだ! 今から対抗戦のメンバー呼ぼう! 史上初、女子校が勝ったのだろう! 私がもてなしてやらねば」
ミトルの悪い癖が始まった……だが、ここにミコト達が来ることは彼女達にとっても大きなメリットがある。
「シルビア、みんなを呼んできて。そうそう、ルルとメルもね♡」
「カイル様、それキモいですよ。心は爺さんなんですから(笑)」
だめだこりゃ…………
△△△△△△△△△△△△△△△
「ダフネ校長、マーリ教官、本当にお世話になりました」
「イブ、色々ありがとう。これでお別れだな……」
「またいつか戻ってきますから♡ それまでここ、辞めないでくださいね!」
「戻ってくるって……また犯罪者として戻るのはやめてくれ(笑)」
ダフネ校長は素晴らしい人間だ。冗談まで冴えている。彼女に任せておけばサンドラの改革は成功するだろう。
「ミコト、クマコ、リッカ、ルルとメル ありがとうねっ♡ 涙はなし! きっとまた会えるから!」
「うん、その言葉信じるね」
「みんなにあげたお守り、ピンチのときに使うのよ。それに祈ると切り抜けられるからさ」
まさかイブが登場するとは言えない。もし、イブが死んだとしても……代わりにアルカが助けに行くようアルカにも頼んでおこう…………。
「あのね、私達もイブとシルビアにプレゼントがあるの。リッカ…………」
リッカはカワイイ刺繍が入っているポーチをイブとシルビアに渡した。イブは紫、シルビアは赤である。
「ありがとう!」
「これね、みんなお揃いなんだ。私もミコトもクマコもルルメルも」
「ちょっと私達の名前、ちゃんと呼びなさい!ルルちゃんとメルちゃんなんだからっ」
とても大切な物を手に入れたように思えた。シルビアはこのポーチの重みをどこまで理解しているのだろうか……この世界は精神が大きくモノをいう。人の想いや願いは力となっていくのだ〜シルビアにも追々教えよう。
「じゃあいくね! 準備はいい? シルビア」
「はい!」
イブは転移の呪文を唱えた。そして……まず向かうはノールダム。アルカを迎えに行くために。
「よし、着いた! シルビア、転移酔いしなかった」
「はい、グニャグニャしたときはどうなるかと思いましたが……」
「では行こう! 我がアジトへ!」
イブはシルビアを連れて、アルカの待つアジトへ向かった。
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