第34話 キャナルシティ

 甘かった……上空からはかなり近いように見えたが、森をかき分けながらの進行、キャナルまでは何とほぼ1日を要した。カナタはヘトヘトになっている。


「イブ様、やっと着きましたね……」


「なんか以前来たときの3倍くらいの街になってるかも……懐かしー!」


 これだけ険しい道でもイブ様は疲れてない、いつものマックステンションを維持している。イブ様はもしや……タダのアホなのではないか、と思うくらいだ。アルカやシルビアもヘトヘトだ。




 キャナルにはもちろん城壁が築かれている。イブ様によると以前は貧弱な城壁があっただけで、通用門は1箇所だったらしい。今は通用門が3つになっていた。


「では参ろう!」


 通用門には衛兵がいる。


「おい、君たち。どこから来たんだ」


「ノールダムからですけど」


「は? ノールダムだと? 嘘をつくな、お前らのような子供が来れる訳なかろ」


 完全に怪しまれている。だが、イブは意に介さない。


「これ、通行証ね。文句ある? おっさん(笑)」


「…………」


 おっさんは無言になった。さすがはイブ、ミトル様に通行証を用意して貰っているとは根回しが良い。こうしてキャナルの街に入ることができた。


「すご~い! 人もたくさんいるね!」


「賑わってるなぁ、とりあえず宿を探すか!」


 カナタは人の多さに驚いた。そして殆どの人は髪の毛の色が黒で比較的小柄。金髪や赤髪、角の少女4人組は正に異邦人に見える。周囲に歩く人々に注目されているが、誰も話しかけては来ない。



「ここにしよ!」


 イブ様は迷うことなくある旅籠に入った。旅籠の1階は飲み屋になっているのか、多くの人で賑わっている。話している言葉は……どうにか理解ができる。


「ではみなさん。ここに3ヶ月程度滞在します。ミーミーちゃんの居場所に転移陣を作ってあるので、アルカは2人を引率して、そこで特訓に励むように! でも明日はお休み、各自これで楽しんで!」


 イブから共和国の貨幣と思われるものを渡された。だが、これは……イブが衛兵さんに渡していた通行証に似ている。


「イブ様、これ通行証なのでは?」


「この紙切れは通称、ユキチ、と呼ぶ。これ1枚で食事が10回は出来る! まあなんだな、共和国のお金だ」


 イブは賄賂でこの街に入ったってことか……。



△△△△△△△△△△△△△△△



「では今日からカナタとシルビアの特訓を行う。付き添いはアルカ、では私か作ったメニューを完璧にこなしてくるように!」


「分かりました」


 アルカが2人を連れて転移をしていった……もう駄目だ…………


 イブが気が付いた時はもう夕方であった。すべてが限界を突破していた。心配かけまいと踏ん張ってきたが、3人が出掛けると気が抜けてしまった。ここに3ヶ月滞在したい訳ではない、単純にイブの体力回復の時間が欲しかっただけだった。


(そろそろ限界……これ飲むか……)


 プラックから渡されたグミ薬の完成バージョン。飲むことで延命されることだろう。今、終わる訳にはいかない。





「イブ様 只今戻りました!」


「シルビア、みんなは?」


「戻るなり買い物に行きました。カナタの剣を見に行くとかで……」


「カナタが持つ剣は選ぶの難しいからな、ちゃんと正解にたどり着けばいいけど。まあ無理だろうな(笑)」


 カナタに合う剣、アレしかない。もちろんお店では売っていない。練習用に剣は必要なので今の段階ではどんな剣でも一振りあればいいのだ。ここはアルカに任せよう。



「戻りました! イブ」


 アルカとカナタが戻ってきた。カナタは剣を抱えている。背丈にあった長さの剣……いい選択だ。 


「カナタ、良い剣だね。貸してみて…………うん、重い」


「イブ、カナタの剣は敢えて重いものを選んだの。練習用だから……」


「長さも練習用に重いのも素晴らしい選択だよ! せっかく剣があるんだから剣を使った特訓メニュー作っておくから」


 カナタは物事を的確に見る目がある、まるで生前のセフィロスである。柔らかい物腰で完璧な準備をするセフィロスの孫、嬉しい。


「これなら私が居なくなってもアルカに頼んでおけば大丈夫そうだ(笑)」


 イブは軽い気持ちで発した言葉であったか、不穏な空気が流れている。近い将来の確実なお別れを意識させてしまったようだ……反省。


「まあなんだ、今すぐじゃないから、当分宜しくな(笑) カナタが特訓後に使う剣は私が用意しておくから、それも凄いやつ!」


「分かりました、イブ様。楽しみにしております(笑)」




 キャナルに来て2ヶ月、特訓は順調に進んでいる。教えることでシルビアやアルカのレベルも向上し、カナタも見違える程に成長している。そして、イブ自身の体調もかなり戻った。


(たまには街でも散策するか)


 イブはここ2ヶ月、外に出ていない。回復には睡眠が一番、眠れないときは自身で睡眠の呪文をかけることもある。


 キャナルの街には人口の川が流れている。川沿いには夜になると雑多な屋台が並ぶが今は何もない。イブは1本奥の道に入った。その時……誰かにつけられている事を感じた。奥の道から外に出ようとした時だった。


「お嬢ちゃん、付いてきてもらおうか……」


 ナイフを持った3人組の男性……恐らく人攫い。ここキャナルにはシティと呼ばれる歓楽街がある、大方そこで強制労働させられるのだろう。イブは体調も良かったので捕まることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る