4:農家のおじさま
ワックマン領の麦畑は領主であるお父様が全て管理している。そのため、農家を生業とする領民は、実際にはお父様が雇っている従業員であって独自の畑をもっているわけじゃない。
まあそれでも、お父様は少々……マイペースな方でして、畑の管理は殆ど農家の人たちに任せっきりだ。
もしかしたら、それをいいことに麦の生産量をごまかして、彼らが相場を吊り上げているとしたら……?
あり得ない話じゃないわね。
その真相を探るべく、私は麦畑へと足を運ぶのだった……!
「…………広いわね!」
一面の麦畑。ちょうど収穫時期でもある今は実った麦の穂が風になびいて波立っていて、ほのかに甘いような、独特の香りを漂わせた。
そんな畑の奥の方に、ちらほらと人影が見える。農家の人達だ。
それぞれが個別に割り当てられた区域を管理しているため、作業している場所も一人一人バラバラだ。
この中からこの子たちの親を探すのは、本来だったなら苦労する……ところだけど、勇気を振り絞って私と一緒に来てくれたこの子たちに聞けば簡単だった。
「俺のお父さんは……あ、いた! あそこだよ!」
「私のおとーさんはあっちです! それじゃあ、先に行ってますね!」
「はあ……カリン様、僕も見つけたから行きますね。そこの怖い顔をしたふとっちょのとこです……はあ」
各自、自分の親の畑をすぐに見つけて親の元へと走っていった。みんな足取りは重い。これからもう奴隷のように働かされる未来が確定しているためだ。
私はというと、隣にいる子が動き出すのを待っていた。
「……はあ、じゃ、俺たちも行きますか。カリン様」
「ええ。しっかりしなさい、最年長!」
「……うす」
麦畑のような金色の短髪をボリボリ掻いて、子供たちのまとめ役でもあるこの男がようやく動いた。
カント・アレンドー。十五歳の筋肉質。焦げた肌に畑仕事はさぞ良く似合うことだろう。
「親父ィ! おーい!」
彼の呼び掛けに振り返る男は、最初は怪訝な顔をしたのち、途端に目をギラリと光らせてズンズンこちらに向かってきた。
まるで熊……!? このおじさま、筋肉質のカントよりも遥かにムキムキで、めちゃデカ……っ!
「こんの愚息がァ……! よくまあここに顔を出せたもんだなァ!? いつも手伝いをサボりやがるくせに!」
「ぐあっ! いでででで! く、首絞めんじゃねェ! こ、このバカ力のクソ親父め!」
「ああああん!? なんだってェえええ!?」
「う、ぐあああ!!!」
悪態をつかれてよりギリギリとぶっとい腕でカントを締め上げるアレンドーのおじさま。……いや流石にやりすぎでは? いくら親子水入らずといえど、これは完全に首がキマってる。カントの抵抗もだんだんと弱弱しくなっていっていた。
「……アレンドーのおじさま。その辺でよろしいのではなくて?」
「ああ? 誰だおめェ……?」
あら、頭に血が上って周りが何もみえていないようね。領民が私のことを知らないはずないのに。というか農家ならなおさら雇い主の領主の娘くらい覚えていることでしょうに。
でも私に気を取られて腕の力が緩んだらしく、すぽんと拘束から逃れたカントが咳き込みながら私を紹介した。
「ゴッホ! ゴホ! ば、バカ親父! テメェのボスの娘さん知らねぇのか!? カリン様だよバカ! バーカ!」
「親をバカ呼ばわりたァ貴様……ッ! って、なに……? カ、カリン様!? カリンお嬢様だってか!? こ、これは失礼いたしましたッ!」
ようやく気付いたアレンドーおじさまは、すぐに胸に手を当てて膝をつき頭を下げた。目上の存在に対して行う最大限の礼儀作法だ。
ふうん。見かけによらず、なかなか話が通じそうな方ね。
問題は、話を聞き入れてくれるのかってところなんだけど。
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