27:賭けの代償
「はあああっ!」
ハイレンの尖った目付きが容赦なく私に刺さる。
そして威勢のいい彼の掛け声と共に、棒きれの連撃も容赦なく襲いくる。私はそれを受けて捌く。
まったく、とんだ才能を秘めていたものだわね。やっぱり冒険者の実践剣術に教わったのが良かったのかもしれない。
……まあでも、まだ私に適う程じゃないわ。
嵐のような連続攻撃も、いずれスタミナが切れる。
その刹那に、そっとカウンターを合わせてあげれば……。
「はい。まだまだね」
コツン。
「あいたっ! ……ま、参りました」
隙だらけの頭を軽く叩く。これで一本。私の勝ち。
これでも私はたまにお父様に稽古をつけてもらっているのだ。
いくら急激に成長したといえど、相手は所詮は一ヶ月前に剣を振ったばかりのお子ちゃま。私の相手をするなんて、まだまだお話にならないわね。
「あはは! やっぱまだ無理かぁ!」
「当然よ。まあ少し汗はかいたわ」
オージンさまは満足げにパンパンと手を叩いた。
すると、わらわらと剣術組の子供たちが集まってくる。……いつの間にここまで手懐けたよのよ!
「よーしそれじゃあ、後はストレッチして帰ってもいいぞー。自主練もいいけど、ほどほどにな!」
「「「はーい!」」」
勝手に訓練を切り上げさせ、私を見る。
「それじゃ、お嬢様。……賭けの代償を払って貰いましょうか?」
「うぐっ、覚えてたのね……」
何か怪しいこの男の言うことなんて聞きたくはないが、しかし賭けに負けて逃げたとあっては貴族の名が廃る。
お金以外の要望なら、多少は大目に見てあげましょう。
……もちろんエッチなこともナシよ?
「そう身構えなさんな。単にデートのお誘いさ。あっちの方にいい感じの湖畔があるんだ。ちょっとそこを散歩でもってね」
よかった。それくらいなら、お安い御用よ。
なーんだ。彼はバトラーおじさまとずっと二人きりで旅をしてきたものだから、私という潤いが欲しかっただけなのね。
自分で言うのもなんだけど、ほら……。
私って、綺麗じゃない?
お父様譲りの美しい黒髪に、お母様のようなウェーブがかった魅惑の髪質。長いまつ毛と整った顔立ちは、決して他のお嬢様方に引けを取らない自負がある。
それに、発育もいい方だ。これもお母様譲りね!
「ふふん、いいわよ。付き合ってあげるわ!」
「おお、ありがたき幸せです」
芝居がかった動作で頭を下げるオージンだった。
☆彡.。
日は少し傾いていた。
私とオージンは馬に乗って、かっぽかっぽと湖畔に到着。
領地の外れにあって、あまり開拓されてない場所だ。たまに魔物も出現するために誰も近寄らない。
だけどその景観はなかなかに、女の子を連れてくるには最適な場所だろう。キラキラと陽の光を反射して輝く水面が美しい。
風が吹くと木々の青臭さを鼻に感じる。なんだか落ち着くにおいで、私は好きだ。
どこかでパシャっと魚が跳ねた音がした。
「どうです? 絶景でしょう?」
「ふうん。まあ、悪くないわね」
「それはよかった。……それでは、どうぞ、お手を」
……ええー、手を繋いで歩くの?
あからさまに嫌そうな顔をしてみるけど、オージンさまは知らないふりをしてニコニコと笑顔を向ける。
はいはい……わかりましたよ。
賭けに負けたのはこの私ですう。
しぶしぶ、彼の手を取った。
……不覚にも、二人きりの男女が手を繋いでいるなんてシチュエーションは初めてなもので、気恥しさに頬が熱を帯びた。
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