33:ぶっちゃけ!

「もう、いいんです。ここ最近は、本当に身の丈に合わない幸福を授かってばかりでした。それも、カリン様のおかげです。本当にありがとうございます。……だからもう、いいんです」


 おばさまはそう言って、ベッドから窓の外を眺めた。

 カントや街のみんなから支えられて、なんとかぎっくり腰は日に日に良くはなってきたものの……もう、パン屋さんを続けることは出来なくなったという。


「はあ。やっぱり、年には勝てないわね。うちのパンは力強く生地をこねることでしなやかなコシと歯ごたえがウリだったんですが……この腰じゃ、もうあのコシを出すことは叶いません。……うふふっ」


 笑ってんじゃないわよ! ぜんっぜん面白くないわ!

 そんなツッコミを喉の奥で我慢した。

 そんなくだらないことに話を割くよりも、もっと聞きたいことがあるのだ。


「でもあなた、パンを作らないで、どうやってこれから稼いでいくのよ。……お金、あるわけないわよね?」


 おばさまは作り笑いをやめて、暗く俯いた。

 カントが……何か言いたげに、それでもぐっと言葉を飲み込む。その筋肉しか詰まってなさそうな頭でも、自分ちの家庭状況は把握しているようね。

 そもそも自立もしていないあなたが何を言おうとそんなもの、気休めにすらならないけどね。

 ひと睨みしてやると、カントは完全に縮こまってしまった。この腰抜けっ!


「ワックマン領を……出ようと思っております……」


「くっ! う、おおっ……! すんません、俺……帰ります!」


 耐えきれずにカントが飛び出す。……つくづく、おバカ!

 まあいいわ。これで話しやすくなった。

 

「ずっとパン屋さんだったあなたが、他の街に行ったくらいで何が出来るというのよ。パンはもう、作れないんでしょう? ……まさか、冒険者になろうだなんて考えちゃいないわよね?」


「い、いえ! 冒険者なんて滅相もありません! 私なんか愚鈍な女、直ぐに魔物に殺されてしまいます!」


「だったらなんで……! ちなみに、ここを離れてどこへ行こうというのかしら?」


 パンを作れないおばさまが、冒険者になるでもなく……何を理由にワックマン領を出るのか。

 ひとつ、ぴんときた。

 答えを尋ねると……やはり、私の読みは当たっていた。


「はい……えと、ウエストパイン領に……行こうかと考えておりました……」


 ウエストパイン子爵領。

 そこはマシラム領の隣に位置する領地であり、ここよりも遥かに国の中央に近い場所にある……都会だ。


 そして、ある業種が盛んであり……上流貴族や、なんと王族の方でさえそれを目的として足を運ぶほどだそうな。




 ぶっちゃけ、風俗っ!

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