34:貴族の過ち
「お父様、お話がございます」
お父様は今日もバトラーおじさまとテーブルゲームに勤しんでいた。
呼び掛けに振り向くと、私の顔を見て、いつものほんわかとした雰囲気はすぐに鳴りを潜めた。苦虫を噛み潰したように眉間にしわを寄せ、これからの話し合いを想定してか、頭をぽりぽりと搔いていた。
この時点で、何を言われるのか気付いているということは……。
やはり黒幕はお父様だったようね……。
残念だわ。
「言っておきますけど。お父様。私、たいへん怒ってますわ」
「そうみたいだね……。こっちに座りなさい。話をしよう」
すぐにお父様はバトラーおじさまに目配せして、退室を促した。無言でその場を去るおじさま。
私はせっかくおじさまが除けてくれたのでその椅子に座り、お父様と対峙する。
既に察することはできたけど、ちゃんとした言質がほしかったからまずは単刀直入にお父様に尋ねる。
「お父様ですよね。パン屋のおばさまに、ウェストパイン領への出稼ぎを勧めたのは」
「ああ、そうだよ」
即答。なんの悪びれもないように見えて、イライラが募る。
ダメだ……冷静になんてなってられない!
「なぜそのようなひどいことを!?」
「カリンちゃん、仕方がないんだよ。……仕事ができず借金を返す当てもないのなら、貸し主である僕が返済方法を提示してあげるべきなんだ。そしてバーバラさんは、それを選んだ」
「借金ですって? そんなもの……いったいどうして……!」
麦の高騰でパンが作れない時に借りた? いいえでもその程度なら、私があげた麦粉でパンを売りまくって……既に完済できるくらいにはなったはず。少なくとも身売りするほどの残金は絶対に残ってない。
――私があげた、麦粉?
それってそもそも、この屋敷から持ち出したもの……。
お父様との勝負に勝って、私が譲り受けたものだけど……。
……うそでしょ?
「お父様……まさかとは、思いますが……パン屋のおばさまの借金というのは、どういった経緯で?」
お父様は心苦しそうに、重く言葉を紡いだ。
「わかっているだろう、カリンちゃん。君は麦粉を譲渡したと思っているだろうけど、それは間違いなんだ。……あれは、ワックマン家からバーバラさんへの貸し付けとなる。いいかい。どれほど思い入れのある平民がいようと、貴族が一個人を差別、優遇してはならない。……覚えておきなさい」
お父様は、優しい言葉遣いで、なんとも厳しい現実を突きつけてきた。
おばさまをこんな目に合わせたのは……私自身なのだと。
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