14:冒険者
誰だろう。異国の旅人の方かしら?
きょとんとしていると、お父様はまずお客様に私を紹介した。
「娘のカリンです。私にはもったいない出来過ぎた子なんですよ。はっはっは」
お父様に合わせて、ここはまず私が最初に頭を下げる。
本来なら客人が先に名を告げるものではなくて? まあ、今回はお父様の顔をたてましょう。
「……初めまして。カリン・ワックマンと申しますわ」
おふた方のどちらに顔を合わせればいいのか迷ったけど、お父様が何も言わないのであれば、見たまま年のとられている方で問題ないでしょう。
一人は顔に皺が刻まれて、褐色の肌色が頭皮まで均一の初老のおじさま。もう一人は若い、といってもカントよりも大人びた風格の方。こちらも褐色の肌に、白いくせっ毛の髪と金色の大きな瞳が特徴的だった。
服装はお二人共、フード付きのコートで足元まで全身を覆っているためにどのような身分の者かは判断しかねるけど……。
まあ見るからに――冒険者の方々ですわね。
世界を自由気ままに旅する彼らのような方々をそう呼ぶのだけれど、大抵は腕っぷしが強く、魔物退治や雇われの傭兵なんかで日々を過ごしているという。
中には世界中に眠る秘宝を求めて未開の地を探索する者たちまでいるそうで、ひとえに冒険者といえどその個人が得意とする専門分野が多種多様で、頼めば意外とさまざまなことをしてくれる……。
便利屋さんといったところかしら?
そんな冒険者さまだろう二人の、初老のおじさまが私の挨拶に答える。
「ふはは! 初めましてか! まあ覚えてはおらんだろうが、お主がまだ小さき頃、実は一度会うておるのだぞ?」
「はい?」
見た目と同じくその口調は豪胆な性格を表していた。
はて。異国の冒険者さまとお会いした記憶など……。
あ、もしかして……。
そういえばこの豪快なお声……聞いたことがありますわね。
「もしかして、いきなりこの屋敷に押し入ってお父様に勝負を挑んだあげく、一瞬でコテンパンにされた武芸者さま?」
「……くぅ~! そうだ、その通り! ゲンブ殿に完膚なきまでに叩きのめされたあげく、その後になぜか多大なもてなしをされて帰ったあの武芸者だ! ふはははは!」
あら、それならこの方には、感謝をしなければならないわね。
もし私の記憶にこの方がいらっしゃらなかったなら、今頃パン屋のおばさまは生きておりませんでしたもの。
……それで、今日はのこのことどのようなご用事でしょうか?
せっかく領民の皆様が開催してくれたパン祭り。きっとお父様もお母様も楽しみにしていたはずなのに、あなたの対応に追われて結局不参加だったじゃない!
そんな気持ちを少し皮肉な言葉で表して、このおじさまの少し困った顔を見れたことでひとまず留飲は下げておきましょう。
なんせ私たちワックマン家は、貧乏男爵家。
自ら敵を作るなんて真似をすればいつでも蹴落とされてしまうギリギリの貴族なのだから!
例え他国の冒険者でも、その方がどんなツテとコネを持っているのかわからない以上、もしかしたら公爵家がパトロンについているなんてことも十分に考えられる。本当に、冒険者なんてやっかいな職業ですわ。
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