15:お話上手

「申し遅れた。我が名はバトラー。まあいわゆる旅の……冒険者のようなものだ」


 バトラーと名乗るおじさま。ほら、やっぱり冒険者だったじゃない。

 褐色に光る頭をガシガシ掻いて、隣に座る白髪金眼の青年にも自己紹介を促した。


「ほれ、お主も挨拶せんか」


「うるさいな、わかってるよ」


 軽く口答えしてから私を向く。


「えー、オージンだ。各国を渡り歩いて色々なものを見聞してきたつもりだ。面白い話もけっこう出来るぜ。よろしく」


「は、はあ? どうも……?」


 面白い話ができるから……なに?

 まるでこれからお話になるような言い草だけど、もう夜も更けてきたことだし、お帰りになって欲しいのですけど。


 しかしそんな私の願いは、キッチンから現れたお母様の一言で叶わぬものとなった。


「お食事の用意ができました。バトラー様、オージン様もご遠慮なく、召し上がってください」


「おお、ありがとうヒャコちゃん。それじゃあお二人共、こちらへどうぞ」


 冒険者の二人をお父様がエスコートして、結局五人で食卓につくこととなった。

 料理もこころなしかいつもよりも豪華なもので……言っては何だが、このたかだか冒険者をおもてなしするには、いささかこちらがかしこまり過ぎでは? と思ってしまって、私としては複雑な心境だ。

 ……よっぽどいいところのパトロンをお持ちなのかしら?




「――で、危うくサンドワームに丸呑みにされるとこを、たまたま腰にぶら下げていたニンニクの臭いが奴は大の苦手だったらしくて、俺を吐き出してそのまま逃げてったのよ。それ以来、ニンニクは俺のお守りってわけだ」


「うふふ。なんですかそれ。あなた、ぜんぜんいいところないじゃない……ふぁ。あら、もうこんな時間だったんですの?」


 気が付くと、時刻はとっくに、いつもの就寝時間を過ぎて、ロウソクも短く、消え入りそうになっていた。

 いやはや、すっかりこのオージンさまのお話に聞き入ってしまいましたわ。

 自分で面白いと言うだけあって、なかなかの話し上手だった。


「はっはっは。……そろそろ皆さん、おやすみになられますかな。バトラーさんとオージンさんも客室にベッドをご用意したので、どうぞおくつろぎくださいな。あまり広くはないですが、小綺麗にはしてありますよ」


 お父様の言葉に皆が同意して、皆が立ち上がる。


「そうですな。……では、今日のところはこの辺で」


 バトラーおじさまがそう言いながらお父様の後ろをついて行く。オージンさまもあくびを一つ。それに従った。


 …………ん?

 今日のところは?


「あら、お二人は旅の途中なのですよね。しばらくこの地へ滞在されるご予定なのですか?」


 失礼とは思いつつ、どうしてもそれを聞かねばならないと思った。

 ……嫌な予感がしたからだ。

 答えたのは、お父様。


「ああ、そういえばカリンちゃんには言ってなかったね。……お二人はしばらくの間、我が屋敷で食客として招き入れることにしたんだよ。だからとうぶん、家族が増えたと思ってくれたまえ」




 ……マジですの!?

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