11:やらない男
心臓マッサージという蘇生方法がある。
それは心臓が位置する胸の中心部を激しく押圧し、その衝撃でもって止まった心臓を無理やり動かし続けることでこの世に生を繋ぎとめる方法だ。
うまくいけば、心臓はまた自発的に動き出し、死の淵にあった者でも復活できる……。
――とても胡散臭い、信憑性のない行為だ。
聖職者様が行われるような『死者蘇生の儀』や『復活の奇跡の魔法』と比べればとてもまやかしじみていて、傍から見てもなんと野蛮なことだろう。
だけど私は、実例を見たことがある。
どこで聞いたか、ある武芸者さまがお父様を訪れて、手合わせを願いたいと剣を抜き放った。
うちは自衛の兵士を雇えるだけのお金はなく、有事の際は隣の領から派遣してもらわなけばならないのだけれど、こういった急な場合はどうしようもなく……仕方なく言われた通り、父が対応することとなった。
相手はこんな無作法な方でも、命の奪い合いがしたいわけではないので木剣での試合がお望みということだった。
両者構えて――開始の合図を出すお母様。
そして瞬時に、勝負は決した。
当時の私には何が起こったのかさっぱり分からなかったけど、結果としてお父様が立っていて、相手の武芸者さまは倒れ伏していた。
だがお父様の勝利に喜ぶ間もなく……お父様は、その武芸者をすぐに仰向けに寝かせて、そして、心臓マッサージを行ったのだ。
「ふぅ~! 下手に手加減したら立場が反対になっていたから、止むを得ず本気を出しちゃったよぉ! あーもう、死なないでくれよ~。もしどこぞのお偉いさんがお忍びで来られた姿だったとしたら……あぁ、怖い怖いっ!」
そう言いながら胸の圧迫を続けるお父様。
そしてお母様も、急いで手伝いに駆け寄って……。
見事に、その武芸者さまは生還を果たしたのだった。
それから意識を取り戻いた武芸者さまを屋敷で多分にもてなし、その方は気分よく帰られたのだった。
そんなわけで、心臓マッサージの効果は確かにあるっ!
さらにお父様は相手の心停止を悟るや否や瞬時にそれを行っていた。時間をかければ効果が無くなっていくのかもしれない。
なので早く心臓マッサージしなきゃいけないのに!
カント! なにやってるのよこのスケベバカ!
「もう本当に鈍くさいわね! もういい! 私がやるわ!」
お父様を真似て……力強く、そしてスピーディに……一定のリズムで!
そしてすかさず……! お母様のように!
「カント! 今こそ本当にあなたの出番よ!」
「あ、ああ! なんだ! 今度こそ何でも言ってくれェ! 俺はおばさんを救いたいんだ!」
その言葉に嘘偽りは、無いわね! それでこそ私の手下よ!
信じてるわ、カント!
「おばさまの口に――ありったけの息を吹き込みなさいっ!」
「!!?!?!?!!!!?!?!?!?!?!???!?!?!」
――そしてカントは、鼻血を噴き出してぶっ倒れた。
いやマジでつっかえないわね!!!!!
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