10:やる男

 心臓、動いてないじゃない!!!

 し、死んだ!? つい一瞬前まで平然とお話をしていたというのに、こうも容易く人は命を落とせるというの!?


「カリン様ァ! 大変だ!」


「ああもうなんですか! カント!?」


 息つく暇もなくカントが大声で私を呼ぶ。お医者様は!?

 振り向くと、案の定、彼一人。


「カント! 急いで!」


「そ、それがカリン様……あの、そういえばこの街に、医者って……いんのか……?」


 ……っ!?

 い、いない!? そうだった! いないんですわ!

 うちはお医者様なんて雇うお金がないから、定期的に巡回してくる旅医者に診て頂いているんでしたわ!


 そんな、それじゃあおばさまは……っ!




 ――私たちで助けるしかないじゃない!




「カント! きなさい! 時間がないわ!」


「お、おう……おう!」


 死ねば心臓が止まる。これは紛れもない事実だ。そして死んだ人間を生き返らせることなんて、どんなお医者様や聖職者様だってできやしない。


 しかし、心臓が止まっている者が誰しも……死んでいるとは限らない!


「よく聞きなさい、カント。これからあなたには重大な処置を施して貰うわ。いいこと。決して……手を抜いてはダメよ!」


「は、はい! 俺、何でもやりますよ! おばさんを救うためなら命だってくれてやりますよ!」


「よく言ったわ! いい? それじゃあまず、おばさまの胸に両手を重ねてぎゅっと押し付けなさい」


「え……? 胸に手を……? おばさんの胸、に……? 手を? え? 俺がっすか?」


 どういうわけか、とたんに挙動不審になってそれを躊躇うカント。

 ……時間がないって言ってるでしょう!?


「早くなさい!」


「う、わかった! ……じゃ、じゃあおばさん、し、……失礼しますっ!」


 カントは一瞬悩んだ後に、おばさまの右のおっぱいを両手でふわっと包み込んだ。

 顔を真っ赤に、目が泳いでた。


「何やってんのバカじゃない!?」


「ええ!? だってカリン様が胸を両手で……? え? え!?」


 ああもう! ……男の子って本当にスケベなのね!

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