44:何通りかの最悪
もう止まらない。暴風となったカントが男に迫る! 剣を振りかざして一心不乱に――て、えええ!?
手に持つ剣が、抜き身!?
「ちょ、待って! だめええっ!!」
さすがに殺しちゃマズイわよッッ!
だけどカントは止まらなかった。怒りに我を忘れて私の声も届かず……!
「ほう? なんだ貴様ら。――頭が高いぞ?」
「なっ――!?」
ギィン! 剣と剣とがぶつかり合う。
カントの確実に仕留めにかかった一撃を、おばさまの隣にいた男は……十中八九リュカさまなんだけど、彼は瞬時に剣を取り出して防いだ。
動揺が隠せないカント……! おバカ!
あなたの剣はたかだか数ヶ月鍛えただけの田舎剣術……! その中で強い部類にいたとしてもね。相手は幼少から達人の教えを受けて来た貴族なのよ! それも洗練された都会剣術!
不意打ちを防がれるなんて想定内! その程度で動揺してんじゃないわよ!
ああでも……防いでくれてよかったわ!
何通りかある最悪の事態の、その一つはまず回避された!
「何してるの! どんどん攻めなさいッ!」
「いや遅いね」
カントの隙をついて、リュカさまは逆に猛攻でもってカントを押し戻した。
「は……ぐう!?」
一度体制が崩れてしまったカントがここから巻き返すのは無理ね。さっさと引きなさい! カント! ……カント!? な、なにはり合ってるのよ!?
「う、お、おおおお!」
掛け声は大したものだけど、踏ん張れば踏ん張るほどドンドン追い込まれていく。相手の剣が防げずにどんどん傷も、増えていく! このままじゃやられる!
「『
「む……?」
リュカさまの認識を魔法でズラす……! さしずめカントが二重に見えてることでしょうね! すかさず、ウィンドボール!
リュカさまは、……視界がブレているはずなのに私が放つ空気の砲弾をものともせず切り伏せるが、そんな攻撃が通用しないのはわかってる! 私の目的はあくまで、カントの救出!
カントの耳を掴んで、力まかせにグイっと引っ張る。
「いでででっ!」
痛みに抗えずに、カントは自らの足でも私と共に下がってくれた。
そんな彼にとりあえず一発……ぶん殴る!
ほっぺをバチンと貫いた! ぐえ!っと唸って、倒れ伏す。
「バカ! 死ぬ気!?」
「いでえ……で、でもカリン様……! お、おばさんが……ぐう! 汚されちまった……! うあ、あああ……!」
倒れたままの姿勢で項垂れるカント……。なに泣いてんのよ……。
そんなの……私だって同じ気持ちよ……。
「うぎゃあ!」
「――アルク!?」
そんなやり取りの最中も、リュカさまから意識は決して反らしていない。
しかしアルクの悲鳴は、私達とは完全に関与しない位置から聞こえてきたのだった。
――伏兵ッ!?
気付いた時にはもう遅い。
私も瞬く間に、地面に押さえつけられてしまったッ! ま、マズい!
何通りかある最悪の事態の、その一つ……!
返り討ちに合うッッ!
それがいま、現実のものとなろうとしている!!!
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