58:オージンという男
「すごい……綺麗……」
思わず口をついた言葉に、オージンさまは振り返る。
ルビーのような深い紅みを帯びた鱗の一つ一つが太陽のように輝いて、煌々と燃えているようだった。
「『龍の加護』のレベル2といったとこだな……肉体に龍神の力を宿し、無敵の肉体を手にすることができるんだ。もっとも、これができるのは王族でも百年に一人と言われている」
オージンさまの説明が本当ならば……彼は国を守護する龍神に選ばれた……次期国王なのではなくて!?
そんな方が本当に、なぜうちなんかに居候してますの!?
それも命がけの決闘なんかしてっ!
……ともあれ、ライオネルおじさまの剣は折れた。これで勝負は決したのだ。
さああとはリュカさまに決闘の終了を宣言していただいて、もうとっとと帰っていただきましょう。
そのあとで、オージンさまにはたっぷりとお話を聞かせて貰うことにしますわ!
「リュカさま! 勝負は決しました! オージンさまの勝利を宣言してくださいませ!」
「……ふん、そのようだな。実につまらんわ。では勝者――!」
悪態をつきながらも右手を挙げて、リュカさまが決着の宣言を――するのを、オージンさまが阻止した。
具体的には、人間離れした跳躍でもって一気にリュカさまの元へ跳躍して、上げた右手と、その口を抑え込んでしまったのだ。
「もがぁ!?」
「そう早まるなよ。まだ勝負は終わってない。……なあそうだろ? ライオネル殿?」
不敵に笑うオージンさま。
「な……なに? 俺はもう、た、戦えないぞ……! 剣は折れた! もうおしまいだ!」
「いいや、ダまだ終わっちゃいない」
「な、なんだって言うんだ……」
対してライオネルおじさまは、完全に戦意を消失してしまっていた。
オージンさまの意図がわからない……この戦いを無意味に引き延ばしてなにがしたいの?
その真意は、すぐに明かされた。
「ぬるいこと言うなよ。開始の宣言を忘れたか? 『この勝負が終わってなお立っていられる者は一人』なんだよ。俺たちはまだ、お互い生きてる……決着はまだついていないってワケだ」
「な……っ!?」
「オージンさま!?」
彼の金の瞳が怪しく光る。何を言ってるの? まさかもう戦うすべもない相手を一方的に殺そうとでも言うの!?
即座に異議を申し立てる。こんなことを言うなんて、まるであのお優しいオージンさまじゃないみたいだった。
「オージンさま! もうやめましょう! あなたの勝利ですわ! これ以上は、貴方の名誉に傷が残ります!」
「ああ……すまん、カリン様。実はオージンって、偽名なんだ」
……まあ身分を隠したい王族なんですもの、そりゃそうですわよね!
彼は言葉を続ける。
「俺の本当の名は、シュサク。シュサク・フェルニクス・ルビーラスト。まあこの真っ赤な姿を見てわかる通り、紅龍国の王子だ。――俺は我が弟である第二王子の謀反により、国外へ逃亡した身なんで、身分を隠していた。すまない」
――え!?
めちゃくちゃ重大事項をさらっと言いませんでしたこのお方!?
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