46:ぐうの音も出ない

 この街において、下半身事情に関しては不遜の限りを尽くす伯爵家の者が……誰かに説き伏せられるなんて有り得る?

 可能性があるとすれば……。


 自身よりも階級の高い者に対して。


 ……まさかね。冗談よね?

 だってそれはつまり、私の目の前にいらっしゃる方は……!


 ――公爵家の者ということになるのよ!?


 いやいやいやそれはだって……マズイでしょう!?

 それもうリュカさまをシバキ倒す以上のやっばいことになってんじゃない!


 だって……めちゃくちゃ殺す気で斬りかかったのよ!?

 しかもおばさまのせいで身元割れちゃってるのよ!?


 王族とほぼ同等の権力を持つ方に!!!


 ワ、ワックマン家……一族全員処刑されるレベルの重罪じゃない!!!


 しかも知らなかったとはいえ、助けてくれた相手を切り付けるなんて恩を仇で返す非の打ち所が無いくらい言い訳無用の醜態ッッ!!!


 まずい……!

 社会的にも物理的にも死の選択しかないっ! しかもお父様もお母様も道連れに……!!


 こ、こうなったら……こうなったらあっ!

 やぶれかぶれよ!


「いかんせん、信じられないわね……。聞けば私の仲間を攫った人物は大層な色情家らしいじゃない。それが人の話を素直に聞くとは思えないわ」


 もう完っ全に……しらを切る!!

 あなたのことなんて知らぬ存ぜぬ! 私はただ仲間を助けたいだけ! それ以上のことはなにもわからない!

 このスタンスを貫くっ!


「現に! あなた……もしリュカさまを仮に追い払ったのだとしても、結局おばさまと……キスしてたの、こっちはちゃんと見てたんですからね? 言い逃れは出来ないわよ!」


「ほう? 何が言いたい?」


 おばさまの肩を抱く男が言う。さっきまでリュカさまだと思ってたから憎たらしく見えたそのお顔も、確かに、こうして見れば気品ある顔立ちに思える……。私って、人を見る目がないのかしら? まあいいわ。

 食いついてきたことですし、ベラベラとありもしないことをでっちあげる。


「つまり……あなたが本物のリュカさま……ということよ。おばさまを連れ出したのは影武者といったところかしら? そしてピンチに駆けつけて影武者を追い払い、あたかも運命的な出会いを演出したのよ!」


「え、えええ!?」


 おばさまが驚いて目を白黒させ、隣の男と私を交互に見やった。

 ……揺れた! おばさまの心が!


「おばさま! こちらに来なさい! あなたきっと騙されてるのよ! さあ早くっ!」


「ええ……」


 困惑して……一言。


「私なんかを相手に……そんな面倒くさいこと……しますかね……?」




 確かにッッ!!!

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