22:決闘(?)

 オージンの金眼が私を捕らえる。

 異国人特有の褐色の肌が、カントの農作業の日焼けとは違って、異質に映る。

 私にバレないようにこそこそと何かをしていたようだけど、別にこうしてバレたところで、なんら焦る様子もないのが不気味だった。


 それに、なにやら子供たちも、オージンがこの場に居ることに抵抗はない様子だ。

 ……さてはこの方が、子供たちに剣術を?

 そう考えれば彼らの成長速度にも納得がいく。

 冒険者の実践剣術が、剣を習う者のいい刺激にならないわけが無い。


 それに、この男……。


「ご、ごめんなさいカリン様! オージンのアニキに剣術を教わってるのを、黙ってて本当にごめんっ!」


「でも俺たちが頼んだんだぜ、カリン様! 強くなりたいから剣を教えて欲しいって、だからオージンのアニキは悪くないんだ! 許してくれよカリン様!」


 オージンのアニキ……ね。

 私が何も言わないでいると、怒っていると思った他の子供たちも次々と弁明を始めた。

 誰もがオージンを擁護した。


「オージンのアニキすげーんだぜ! カリン様もきっと気に入るよ!」


「教え方もうまいし……あいや! カリン様ももちろんうまいですけど! その……!」


「それにオージン様って……カッコよくないですか!? カリン様もそう思いません!?」


 そうなのよね。彼……イケメンなのよね。

 それでいて話もお上手で、ついつい聞き入ってしまう。そんな魅力がある。


 そしてこれは……明らかに私にとってもプラスの出来事だった。

 子供たちの指導は思った以上に大変……っ!

 剣術の上達する速度にどうしてもバラツキがあるから各々のレベルに合わせて教えなきゃならないし、加えて魔法組との両立は、頭がこんがらがるわ!


 そこに降って湧いたような剣術の臨時の先生。皆に好かれて指導も上手い。

 私は魔法組に専念できる。

 ……効率だけを考えれば、これはまさに天啓っ!




 ――あくまでも、効率だけを考えれば、ね。


 そして私は――!


 別に、急いでないっ!!!


 そんなことよりも!

 オージンがちゃちゃを入れたことで……彼に尊敬の念が集まっている方が私にとっても大問題だわ!

 だって、私への敬意が薄れるじゃないっ!


「……オージンさま。随分と子供たちにも慕われていますのね」


「ああ、なんかまあ、懐かれちゃって。はははっ」


「剣のご指導もありがとうございます。……私に隠れて、というのが些か疑問ですけど」


「いやあ、サプライズ? お屋敷の一室をお借りしている身なもので、せめてもの恩返しにとね。……サプライズはお嫌いでしたかな?」


「いいえ? 私、サプライズって大好きなの。だからとっても有難いから……私からも、恩返しをさせてほしいわ」


 この男よりも私の方が優れている。

 皆にそう思わせて、私の偉大さを再確認させるためには……これしかないわね。


 私はちょうど足元に落ちてる木の棒を拾い上げた。

 ぴゅんっと振って、使い心地を確かめる。……まあ悪くないわね。


 それを、両手で掴み……。


「そうね。お礼に、手合わせしてあげる。前に私と戦いたいと仰ってましたよね?」


「……へえ」


 感心して、にこりと笑うオージン。

 ふん、その余裕の表情……!


 絶対に泣き顔に変えてやるわ!

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