38:あたまおかしい

 おばさまを送ったあとは、すぐ近くの寂れた酒場に立ち寄った。

 外見はあれだけど、中に入ってしまえば、それはそれは賑やかな場所だった。

 酒を飲みかわして、何が面白いのか大声をあげて笑う大の大人たち。

 私達もその仲間に加わるとしましょうか。




 ――で、いま、テーブルに座る私達の前に置かれた三つのコップ。

 中には少し濁った色をした、独特の異臭を放つ液体。


 これが……お酒っ!

 このツンとしたアルコール臭が、いかにも安酒って感じで……!


 いいわね!

 なんだか冒険者って感じがするわ!

 なんたって冒険者と言えば、一日の終わりに酒場で酒を飲むというのが定番ですもの! せっかく親元を離れたというのだから……初めて、このお酒というものを口にしてみますわ!


 酒!

 飲まずにはいられないッ!

 

「あなた達も、いいわね……! いっせーの! で、飲むわよ!」


「わ、わかりました……これが酒……ぜったいに体に悪いにおいがしてるけど……大人はみんなこれを飲むんだ。」


「あ、俺、これけっこう平気かも! 親父が飲んでるヤツよりずっといい臭いだぜ?」


 ……ワックマン領に戻るときは、アレンドーおじさまにもっといいお酒をお土産に持っていきましょうね。

 まあそんなことより……いくわよ!


「いっせーの!」


 いざみんなでコップを取り、グイっと一気にその中身を煽る。

 水とは違う、舌に触れた瞬間に襲ってくるイガイガとした感触。それは瞬く間に口腔内に感染し、まるで毒草を嚙み締めているような錯覚を覚えた。

 絶対に飲み込んではならない……っ!

 本能がそう告げている!

 今にも吐き出してしまいたい衝動に駆られる!


 ――ゴクン。


 しかし……! 飲み込むっ! 本能を抑え込む!

 喉を通り食道へ、体温よりも明らかに冷たいはずのそれは、しかし不思議と、『熱』を伴って私にその存在感を未だに主張してくるのだった。


 そして胃の中から……ほわっと立ち上るかおりが……鼻から抜けて外に出た。




「――く、くさいっ! くさいわ! おえっ! そ、それにま、マズすぎる! なによこんなの……大人たちって、頭おかしいんじゃなくて!?」


「ぎゃあああ! だ、ダメだスンマセンカリン様! ト、トイレ……ぼええええっ!」


 私とカントがギャーギャー騒いでいる横で、しかし最年少のアルクは……。


「あ、僕これ、意外といけます! おいしいかも!」


 ケロっとぐびぐび飲み干していた。

 頭おかしいんじゃなくて?

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